冬の使い
朝起きると、お兄ちゃんが疲れた顔でキッチンに立っていた。お母さんの姿はない。
ふと、窓の外に目をやると、おかしいな。今日から雪が降るのに降っていない。
「お兄ちゃん、いつ帰って来たの?」
僕はパジャマ姿で、ルーを椅子に座らせ、お兄ちゃんの隣に行った。
お兄ちゃんは眠たそうな顔で、パンを切っていた。
「朝の4時くらい。本当、昨日は疲れたよ。冬の使いを捕まえたのはいいけど、全然口を割らないんだ。
そもそも俺は冬の使いを捕まえるのには反対していたけど、今日雪が降っていないのを見るとどうやら本物らしいからな、あの子」
お兄ちゃんは溜息をついた。お兄ちゃん、本当に疲れきっているんだね。
「でもさ、上もちゃんと考えてるみたいなんだ。ちゃんと冬が必要なこともわかっていて、人工的に冬にする機械を開発中らしいんだ。そんなもの本当に出来るのかね」
「え? そうなの? じゃあ、冬がなくなりはしないんだね」
「そうだな。まぁ、冬がなくなったら生態系にも響くだろうし、だけど本当に人工的に冬何か作れるのかねぇ……」
お兄ちゃんは独り言のように呟いた。何だ、結局冬はなくならないのか。
でも、人工的ってことは多分、ロッシのお父さんとかが色々考えているんだろうな。スノーウィー達が冬眠しない冬とか。
きっと、冬は冬でもいつもの冬みたいに長く厳しくないものなんだろうな。
これで、きっとお父さんも帰ってきて、お母さんも元気になるよね。でも、もしこのままだったら……?
お父さんも帰ってこなくて、お母さんも元気にならなくて……、僕は友達を売った最低な奴だ。家族が元通りになってもそれは変らない。
「ブランカはどうなっちゃうの?」
僕はお兄ちゃんに問うた。自分で売ったくせに、ブランカの心配をしているなんて、笑っちゃうよね。
でも、怪我をするようなことはしてほしくない。実験とか……。わかんないけど。
「暫くはあのままだろうなぁ。大丈夫だよ、ちゃんと食べ物も与えているし、死ぬことはないし、殺すつもりもない」
お兄ちゃんはニっと笑い、僕の頭を撫でた。
そうか、良かった。ちょっと安心した。僕は何て自分勝手な奴なんだろうね。ブランカは怒っているだろうか?
「これで、うちは全部元通りだよね? お父さん戻ってくるよね?」
喧嘩の原因は冬。その原因がなくなれば、仲直りするはず。
だけど、お兄ちゃんは何も答えなかった。何も言わなかった。ただ、疲れた顔で笑っただけだった。
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