冬の使い


僕達は直ぐに森へと向かった。僕達が森に着いた時には、ロッシのお父さんかな? 体格のいい男の人と、メガネの女の人、それにお兄ちゃんがルーを背負ってそこにいた。 何でルーもいるんだ? お母さん出かけているのかな。

「パパー!」

ロッシは体格のいい男の人を見るなり、駆け出した。
ロッシのお父さんは手を振った。

「お兄ちゃん」

僕はお兄ちゃんの傍に行った。
本当にどうしてルーがいるんだろう?

「おー、ベル。俺、今仕事中だから、ルーをおぶってくれないか?」
「いいけど、何でルーがいるの? お母さん、留守なの?」

僕がそう言うと、お兄ちゃんは僕の耳に顔を近づけて

「母さん、育児放棄しちゃったんだ。誰にも言っちゃダメだぞ」

と言った。え、お母さんが育児放棄? 僕はかなり驚いた。驚きながら、お兄ちゃんにルーを背負わされた。
やっぱり、冬のせいだ。冬がなくなれば、きっと皆元に戻るはず。お父さんも、お母さんも。僕の家族は元通りになるんだ。

「おーい。ベル、ベルの兄ちゃん! 森の中に入るってよー!」

僕とお兄ちゃんが話していると、ロッシに大声で呼ばれた。
近くに居るのに。本当にいつでも元気いっぱいな奴だな。

「パパ。こいつがベル。電話で話したでしょ? ベル、この人が俺のパパ。女の人はグリューネさん。ベルの兄ちゃんと一緒で、パパの部下」

 ロッシの近くに行くと、ロッシのお父さんとメガネの女の人を紹介された。ロッシのお父さんは僕ににっこりと微笑んだ。
女の人は深々と僕に頭を下げた。お兄ちゃんよりは年上っぽい。お堅い感じの人だ。ミランダ先生とは全然違う。

「ベルくん。今回はありがとう。これからもロッシと仲良くしておくれ」
ロッシのお父さん。そう言って笑ったけど、いい人なんだけど何だか少し偉そう。大きいからそう見えるのかもしれない。
でもいいな、ロッシはお父さんが居て。僕だって、お父さんを取り戻したい。




僕達は森に入り、小高い丘へと出た。
お昼ごはんは、ロッシのお父さんが用意してくれていて、僕達は森の前でパンを食べた。
小高い丘には、当たり前だけどブランカがいる家がある。

「ここが、ブランカ……冬の使いがいる家だよ。去年もその前もここにいた。留守にすることはないはずだから、いると思うけど……」

心は痛まない。それは、少し嘘だけど、冬が憎くてしょうがない。
冬がなくなり、家族が元に戻るなら僕は何だってする。そのためなら、友達を売ることだって出来る。
ロッシのお父さんは、グリューネさんとお兄ちゃんに目配せした。
一体どうやってブランカを捕まえるんだろう。あまり手荒なことはして欲しくないな。 僕がそう思っていると、ロッシのお父さんは、お兄ちゃん達を連れて、ドアに近づき、ノックをしないでドアを開け放った。 この家には鍵はない。お兄ちゃんたちは、ドアを開けたまま家の中に入った。ブランカはいたのかな? 僕とロッシも後に続く。

「君が冬の使いかね?」

ブランカは居た。この間のように、椅子に座りくつろいでいる。
ビアンカは床で寝ているけど、耳がピクっと動いた。

「君が冬の使いかね?」

もう一度問う、ロッシのお父さん。
グリューネさんはどこかに電話をかけている。ブランカは不適に笑った。

「毎年冬が来るとビアンカと一緒にこの町にやって来るが、自ら冬の使いだと名乗ったことはない。だからこの場もあえて、違うと言っておこう」

ブランカが怒っているのか怒っていないのかわからなかった。
ブランカは抵抗をしなかった。抵抗をしなかったから、あっという間に捕まってしまった。 僕はロッシのお父さんにお礼を言われたけど、連れて行かれるブランカを見ることが出来なかった。 ロッシはロッシのお父さんと一緒に行ってしまった。ブランカはグリューネさんとお兄ちゃんに捕まえられ、どこかへ行ってしまった。 ビアンカもいつの間にかいなくなっている。僕はルーを連れて、家に帰った。
お兄ちゃんは、その日帰ってこなかった。お母さんはお兄ちゃんの言うとおり、僕達が帰って来ても、部屋から一歩も出てこなかった。僕達が帰って来ても、声すらかけてくれなかった。部屋で何しているのかは知らないけど、部屋から出てこなかった。
僕は、ルーと僕のご飯を作ろうかと思ったけど、お母さん買い物には行かなかったのかな。 食べる物が何もなくて、僕達はひもじい思いをした。夜は、ルーを抱いて寝た。何だか涙が出てきた。



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