冬の使い
次の日の朝もお兄ちゃんがキッチンに立っていた。お兄ちゃんが言うには、お母さんショックで寝込んじゃったらしいんだ。
それで、部屋に入ると物凄い勢いでヒステリーを起こす。だから、僕は怖くてお母さんに会えない。
お兄ちゃんもお母さんのことについては何も触れなかった。ただ、小さなルーだけは、やっぱり何もわからないのかいつもと変わらなかった。
学校に行く並木道でスノーウィーに会った時は凄くほっとした。だけど、明日からスノーウィーには会えなくなるし、学校も休みになる。僕の避難場所がなくなるんだ。
「どうしたの? ベル」
僕が俯いて歩いていると、スノーウィーに顔を覗き込まれた。
多分、心配しているんだと思うけど、これは言えないよ。家族のことだもん。それに今言ったって、スノーウィーは冬眠してしまう。
「何でも……」
「おっす!!」
「いたっ!?」
スノーウィーにそう言いかけた時、挨拶とともに背中をバンって叩かれた。
こんなことをするのは1人しかいない。
「おはよう、ロッシ」
「おう、おはよう。スノーウィー」
ロッシは朝から元気がいいな。でも、背中は叩かないでほしい。まだジンジンする。
「どーした、ベル。暗い顔して。そんなことより、昨日冬の使いを捕まえるってこと話しただろ? あれ、たくさんの人が賛成してくれたんだ。
一般の人からも捕まえて欲しいって要望が来た。びっくりだろ? さすがパパだよ」
ロッシはそう言って自慢気に笑った。ずるい、ずるい。何で、ロッシにはお父さんがいるんだ。何で僕の家は、冬のせいで家族がバラバラにならなきゃいけないんだ。
冬がなければ、お父さんとお母さんは喧嘩をしなかった。お父さんは家を出て行かなかった。お母さんだっておかしくならなかった。全部は冬のせいだ。
「僕、冬の使いが誰だか知っているよ」
そんなことを考えていたらそう、僕の口が勝手にそう言った。
一瞬、ブランカの顔が浮かんだけど、直ぐにかき消された。
「ほ、本当か!? どこに居るんだ!?」
ロッシはくらい付いてきた。冬何かなければ、僕の家族はバラバラにならなかった。冬何か、なくなってしまえばいいんだ。僕の家族を壊した冬何か大嫌いだ。
「学校に行く方じゃない並木道の先に森があるでしょ? その森の中に小高い丘に古い家があるんだけど、そこに居るよ。
多分、冬の使いだと思うんだ。冬になると毎年やってくるし、雪が降る日もわかるみたいだし」
僕の中で何かが冷え切っていく。
でも、後悔なんかない。ブランカが来なきゃ、お父さんとお母さんは喧嘩何てしなかった。
「マジでか!? 帰ったらさっそくパパに伝えないと!」
ロッシは嬉しそうだった。
ロッシが嬉しそうならそれでいい。
「でも、ベルはどうしてそんなことを知っているんだ?」
喜んでいたと思ったら、僕のことを見てきた。首をかしげ。
僕はその問いには答えなかった。ちょっと恥ずかしいことでもあるからね。
僕とブランカと会ったのは3年前だ。スノーウィー達が眠っている場所を探していた。起こして遊ぼうとでも思っていたのかな。
そうしたら、いつの間にか知らない場所に出ちゃって、迷って、木の上から雪が落ちてきて、下敷きになった。
そんな時、ブランカとビアンカが助けてくれたんだ。そのまま友達になり、去年僕はブランカが冬の使いじゃないかと思うようになった。
僕は、そんな恩人を裏切ろうとしている。心がチクリと痛んだけど、気づかなかったふりをした。
学校に行ったのは良いけど、全然授業とかなかった。
冬の間のプリントとか、そういうものを配られて学校は休みになった。スノーウィーは学校が終わるとそそくさと帰って行った。明日、冬眠だから何かと準備があるんだって。
「おーい、ベルー!」
ロッシはいつでも元気で、遠くから僕を呼ぶ声がした。
ロッシは動くけはいはなく、大声でずっと僕を呼び続けている。これは、僕が行くしかないか。
「なんだよ、ロッシ。用があるならそっちから来いよ」
少しだけイラっときて、言い方がきつくなった。
「そんなことは、どうでもいいからさ。ちょっと聞いてくれよ。俺、さっきパパに電話して冬の使いのことを話したらさ、
今から森に行くから案内してくれって言われたんだ。きっと、お前の兄ちゃんも来るぞ。お前も一緒に来てくれるよな?」
ロッシは笑った。ロッシは、いつもお気楽でいいな。
まぁ、いいか。僕しか場所知らないし、暇だし。
「良いよ。行くよ、直ぐに行こう」
「いえーい! さすが、ベル! 話わかるー!」
ロッシは両腕を挙げ、万歳をし、歓声をあげた。
ロッシは本当、面白い奴だよ。冬がなくなるなら、何だって教えてやるよ。
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