蒲公英
次の日、直紀は自然に目が覚めた。
そして、家で珍しく朝食を食べ、家を出た。
母親は珍しく直紀に何も言わなかった。
「よぉ、柳沼。お前退学処分だって?」
暫く歩いていると、直紀の学校で直紀と同じような行動をしている先輩たちに出会った。
直紀と同じような行動…つまり、カツアゲや万引きのことだ。
「ま、お前みたいな奴は退学になって当然だな。お前みたいなクズはさ」
先輩たちはニヤニヤと笑いながら言った。
直紀は拳をぎゅっと握った。
が、直紀の手が出るまもなく、ひなが直紀と先輩たちの間に立ちはだかった。
「何で、何で…何でそんなこと言うの!!? 直紀のこと何にも知らないくせにっ…!! 直紀はクズ何かじゃない!! 直紀は…僕を助けてくれたもん!! 直紀は、優しくていい人だもん…」
ひなは、直紀を悪く言われたのがそんなに悔しかったのか、昨日直紀がクズと呼ばれたのに何も出来なかった自分が情けないのか、泣いていた。
「何だ、このガキ…。お前ら行くぞ!」
ひなのことを奇妙に思った先輩は、仲間の先輩たちを連れ何処かへ行ってしまった。
「ったく…。あれぐらいで、泣くんじゃねぇよ……」
直紀はしゃがみ、ひなの泪を拭いた。
「だって…。直紀は、本当は優しいのに、あんな事言われるのが嫌だったんだもん…」
「俺は優しくない。それはお前だってよく知ってるだろ?」
直紀は立ち上がった。
「直紀は、直紀は優しいよ。こんな、ちっぽけなたんぽぽを助けてくれたんだから…」
ひなは、また泣き出した。
ひなの目から、一度は泊まった泪が次から次へとポタポタと落ちていた。
「ただの気まぐれさ」
直紀は歩き出した。
ひなは直紀の後を追わなかった。
「それでも、僕は嬉しかったよ。恩返しが出来なくてごめんね。……バイバイ……」
そう、ひなが言うと、ひなの気配が消えた。
「ひな?」
直紀が振り返ると、やはり…ひなの姿はなかった。
花びらにでもなったのかと思い、直紀はひなが消えたところに行った。
そこには…何も無かった。
直紀は何かがおかしいと思い、ひなの姿を探した。
だか、はやり人の姿のひなも、花びらの姿のひなもどこにもいなかった。
直紀は不安に思い、あの空き地へ走った。
空き地に着くと、そこにはたくさんの人がいた。
特に何かをやってるいわけでは、無いがその人たちはタバコをぷかぷかと吸っていた。
直紀は入り口付近に植えたひなのたんぽぽを探した。
直紀は、思わず息をのんだ。
そこには、タイヤに踏まれてくしゃくちゃに枯れているたんぽぽの…ひなの姿があった。
空き地の中には数台のバイクとタバコを吸っている数人の男たち。
直紀は真っ直ぐ男たちに向かっていった。
「何だ、こいつ?」
金髪の男が直紀を見て言った。
直紀はその男に向かって、いきなりその男の腹を思いっきり蹴り飛ばした。
男は少し吹っ飛んだ。
「お前ら…よくも、よくも……。ひなを返せ!!!!!」
直紀は叫んだ。
そして、次々にその場にいる男たちを殴り倒したり、蹴り倒した。
血が飛び散った。
男たちは何が起こったのか、よくわからなかった。
その時、あの老人が空き地の前を通った。
「直紀くん!!」
老人はこの現状に驚き、直紀を男たちの間に割って入った。
「直紀くん! いったい何をやっているんだ!!?」
男たちは、老人が必死に直紀を止めるのを見て、バイクに乗り去っていった。
数人鼻の骨が折れていた。
「止めるな!! あいつらは、ひなを…たんぽぽたちを殺したんだ!!」
直紀は男たちの去った方を見て、叫んだ。
直紀の目には泪が溢れていた。
暫くすると、暴れていた直紀は大人しくなった。
「たんぽぽたちは死んだわけじゃないよ。見てごらん」
老人は、くしゃくしゃに踏まれているたんぽぽたちの方を指さした。
そこには…たんぽぽの種をいっぱいつけたわたげが、空を舞う日を夢みながらまっすぐと、伸びていた。
老人は笑った。
「たんぽぽたちは生まれ変わるんだよ。そして、あの種1つ1つに君と出会ったこと、君に助けてもらったことが詰まってるんだ」
直紀は、泪を拭いた。
そして、そのわたげの前にしゃがみこんだ。
「なぁ、じいさん。俺もさ、こいつらみたいに強くて優しい奴になれると思うか?」
老人は、直紀のその言葉を聞き、優しく微笑んだ。
「君ならなれるよ。たんぽぽたちのために泪を流せる君なら、絶対なれるよ。このたんぽぽたちのように…」
風が優しく、ひなと直紀の思い出が詰まった種をどこかへと運んでいった。
種たちは、思い出を胸に空を舞う。
また直紀のような人に出会えるのを願いながら…。
ひな、お前のお陰でまっとうな奴になれそうだ。ありがとな…。
大好きだよ! 直紀
END
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ふぅ〜、なんとか5月中に終わりました。
これも前に書いたものをアレンジしたものです。
直紀は不良な高校生。
でも、そんな直紀はたんぽぽ「ひな」と出会うことで変わっていきます。
たんぽぽ「ひな」は助けてもらったことから、必死で恩返しをしようとしますが、その願いは叶わず。
でも、たんぽぽ「ひな」は自分の知らないところで直紀に恩返しをしていたのです。
そのお陰で直紀は変わることが出来ました。
学校は退学してしまいましたけど、これから直紀はまっとうに、自分の道を進み始めます。
えー珍しく三人称で書いたのですけど、どうでしょう?
2008.6.9
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