蒲公英


たんぽぽの花言葉で“神のお告げ”というものがある。
ひなが何かを感じ取ったのかはわからないが…。


直紀が学校に着いた時、もう1限目は終わっていた。
直紀が騒がしい教室のドアを開けると、まるで寒波でも襲ってきたみたいにシーンとなった。
ひなは、どうやら花びらになっているらしく、どこにいるか分からなかった。
担任の先生が直紀に近づいてきた。
1限目の担当は担任だったらしい。
直紀は自分の席にどさっと座った。

「今まで何やってたんだ? 昨日も勝手に帰るし、噂ではカツアゲしてると聞いたぞ? 聞いてるのか、柳沼!!」

担任が怒鳴り声を上げた。クラスの空気はいっそう凍りついた。
直紀はまったく担任の話を聞いてはいなかった。
そんな、直紀を見て担任はため息をつき背を向けた。

「お前みたいなクズがいるから、この世がダメになっていくんだ」

担任は小声でぼそぼそと呟いた。
が、どうやらその言葉は直紀には聞こえていたらしく、直紀は凄い勢いで立ち上がった。
その拍子に直紀の椅子が倒れた。
それからは、まさに一瞬の出来事だった。
直紀が担任の肩を掴み、無理やりこっちを向かせると、もう片方の手で、担任の顔を思いっきり殴ったのだ。
担任がもし、女だったら直紀は殴らなかったかもしれないが、この担任は男だ。
担任の顔から血がとんだ。担任は、鼻を押さえていた。
口の中も切ったらしく、血が出ていた。

「お前みたいな大人が、俺たちみたいな奴をクズにしたんじゃねぇかよ!!」

直紀はそう言い放ち、机を蹴飛ばし教室を後にした。
教室の空気はいまだに凍りついたままだった。
その後、直紀は退学処分となった。
もちろんその事は家にも、すぐ伝わった。









「退学!!? 信じられない!! 担任の先生を殴るなんて…。いったい何考えてるの!!?」

家に帰った瞬間、お決まりの母親の怒鳴り声だ。
直紀はもううんざりしていた。
どこに行ってもどなられ、貶され、もう嫌にヤケになっていた。
とにかく直紀は眠りたかった。

「ちょっと!! 聞いてるの!!? 直紀!!」

直紀は母親を無視し、自分の部屋に向かった。
とにかく眠りたかった。
直紀は倒れこむようにベッドに横になった。
ひなはちょこんと、椅子に座っていた。

「何で殴ったの……?」

ひなが、直紀を見て言った。
「別に…。ただ、ムカツイたから」

直紀があくびをして言った。
ひなは、また悲しそうな顔をした。
直紀はそのまま夢の世界に落ちていった。









目が覚めると、電気をつけてなかったせいか、もう太陽も沈み暗くなっていた。

「直紀? いるのか? 入るぞ」

直紀の父親がドアをノックし、直紀の返事も聞かずに入ってきた。
ひなは花びらになり、机にヒラヒラと舞い落ちた。

「何? てゆーか、親父帰って来てたのか」

直紀は上半身だけベッドから、起こした。
少しまだ眠そうだ。

「お前、先生殴って退学処分だって? 母さん泣いてたぞ」

父親は直紀のベッドに腰掛けた。

「しょうがねぇじゃん…。殴っちまったものは…。それに、俺が何やろうが別にいいじゃねぇかよ!! もう、もう干渉されんのは嫌なんだよ!!」

直紀は悲痛な声を出した。

「お前は1人っ子だからな。父さんも若いときは色々やったが、お前ほどではなかったぞ。お前は小さい時から頭がよかったから、母さんの期待も大きくて、いつのまにかその期待に押しつぶされていたんだな。父さんはな、母さんほどは怒ってない。そりゃ、先生殴ったのはいけないことだ。それはお前もわかるよな? 直紀、やりたいことを見つけなさい。本当に自分がやりたいと思ってることを。後、友達はつくれよ」

父親は立ち上がり、直紀の頭をまるで直紀が小さな子のように撫でた。
撫でたといっても、髪をくしゃくしゃにしたって感じだ。
ひなは、ただ黙ってそれを見ていた。



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