蒲公英


次の日、直紀はいつもは絶対ありえないのに、目覚ましの音で目が覚めた。
取り合えず、直紀はのろのろと学校に行く準備をした。
ひなの姿はなかった。

「直紀! いつまで、寝てるの!!? 早くしないと遅刻よ!」

階段の下から母親の怒鳴り声が聞こえた。
直紀はため息をつくと、不機嫌な顔で朝食をとらずに家を出た。



直紀は家から結構離れたところにある、コンビニに向かった。
朝だからか、それともいつもなのか、店員は忙しそうにレジを打っていた。
直紀はコンビニの中に入ると、パンや飲み物があるところに向かった。
客は皆レジに並んでるらしく、そこには誰もいなかった。
もちろん、店員も直紀がここに来たことに気付いてはいない。
直紀はちらっと店員を見た。
店員は忙しそうにレジを打ったり、弁当を温めたりしている。
直紀は誰にも気付かれないように、あんぱんとカレーパン、そしてペットボトルの緑茶を掴み、一瞬のうちに鞄の中に入れた。
店員や、他の客は…やっぱり気付いてないみたいだ。
直紀は怪しまれないようにコンビニを出た。



そして、足早にコンビニを離れると、近くの公園に行き、ベンチに座った。
公園には、人は殆ど居なかった。
直紀はさっき取った、あんぱんを鞄から取り出し、袋を開けた。

「直紀、今の万引きだよ。ダメだよ、ちゃんとお金払わなくちゃ…」

いつのまにか、ひなが直紀の隣に座っていた。
どうやら花びらになって家からついてきたみたいだ。

「るせーな。お前には関係ないだろ」

直紀は突然現れたひなに驚きもせず、あんぱんを頬張った。
暫く、沈黙が流れた。
直紀は、あんぱんを食べ終わると、立ち上がり、袋を捨て歩き出した。
ひなもそれに続いた。
今度は花びらの姿ではなく、男の子の姿で。



「あ……っ!!」

暫く歩いてると、あのたんぽぽ畑となっている空き地の前を通った。
ひなは、自分のたんぽぽに駆け寄った。
そして、悲しそうな寂しそうな顔をした。

「どうした? 虫にでも食われてたか?」

直紀は歩いていた足を止め、振り返った。
ひなは微笑み、直紀の方に駆け寄った。

「大丈夫だよ」

直紀は、ひなが自分の近くに来たのを見て、また歩き出した。

「人がせっかくここに移してやったのに、大丈夫じゃなかったら俺の立場ねーもんな」

直紀は鼻で笑いながら言った。
ひなも、笑ったが、ふりかえりたんぽぽたちを、悲しそうな目で見ていた。



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