たったひとつの奇跡


この国には、いわゆる原住民と呼ばれる人と後から移ってきた人たちが一緒に暮らしていた。聞いた話によると、初めは仲良く暮らしていたらしい。
でも、何かがきっかけで内戦が初めってしまったんだ。僕は後から来た人たちに拉致され、銃の使い方を教え込まされた。何で、彼らが僕が住んでいたとこに来たかは解らないけど、僕は拉致られたんだ。

「そいつ、誰だ?」

ジェームズはサンタを見た。サンタはにこにこと機嫌がいいのかわからないが、笑っている。

「えっと、その辺に落ちてた。敵じゃないよ」
「ふーん……」

ジェームズはそれだけ言うと、僕たちの住むところに向かった。信じてくれたかは解らないけど、僕はサンタを連れて行った。
ここには、僕の友達は1人もいない。だけど、それはここに居ないってだけで1人いるんだ。でも、その子は敵側の子だ。僕がここに来たころここへの帰り道がわからず迷っている時に助けられた。それから何度がお互いに約束して会っていたが、あの頃より内戦が激しくなったため、会うことはなくなってしまった。
拉致されたと話したら、その子は「それはルール違反だ」と凄く怒っていた。

「アレックス。今日はお前に大事な話があるんだ」

アジトの前につくと、ジェームズが口を開いた。
地面の雪にはいくつもの足跡が残っている。
アジトには、主に戦う人とか囮になる人とか孤児とか住むところがない人が住んでいる。戦う人たちは、情報を交換するためにここに住んでいるらしい。
前にテレビでみた軍事訓練所みたいに広い。僕は家がないから、ここに住んでいる。ここは寒いから嫌いだ。
もちろん、一般の人は自分の家があるから、ここに来ることがあっても自分の家に住んでいる。敵のいるところに近いとこもあるらしいから、敵が攻めてきて悲しい思いをした人たちもいるらしい。

「何?」

僕はジェームズを見た。赤いやつ……サンタはよくわからない行動をとっている。

「奴らのアジトがわかったんだ!」

ジェームズが嬉しそうに言った。奴らとは敵のこと。彼らも僕たちと同じで、アジトに色々な情報を集めているらしい。だから、僕たちも向こうもアジトの場所を知られたら負けだと思ってていいらしい。因みに僕たちのアジトはまだバレてないらしい。

「それで、お前向こうに知り合い居ただろ? そいつに上手い具合に取り入って、奴らのアジトに入ってほしいんだ。もちろん、実行はお前だけじゃなく2〜3人の子供も一緒だ。子供の方が油断するからな。お前たちには爆弾を持たせる。それで、俺たちはそれを隠れて見てる。お前たちがアジトの中に入ったら、起爆スイッチを押すから、いそいで爆弾を置いて逃げるかなにかをしろ」

ジェームズは勝てるみこみがあるから、嬉しそうにそう言った。でも、僕はそんなの嬉しくない。
だって、それって殆ど高い確率で僕たちも死ぬじゃないか。まだ、家族にも会ってないのにそんな事出来ない。家族にあっても、そんなことしたくない。

「決行は明日だ。よく休んでおけよ」

僕が何かを言おうとすると、ジェームズはそれを遮った。そうか、拒否権なしってことか。こんなよくわからないとこで、死ぬのは絶対嫌だ。

「内戦って大変なんだなぁー……」

サンタが何を思ったのか、そう言った。
そういえば、このサンタ。顔だけじゃなく、声も僕にそっくりなんだよなぁ。身長も僕と大体同じだ。それに、この赤いのが本当のサンタなら何か不思議な力を持っているはずだ。本物じゃなくたって、自称サンタだ。何かできるはずだ。
そうだ、ここに来たこいつが悪いんだ。僕が悪いわけじゃない。

「今日は僕の部屋で寝ればいいよ。今から案内するから」

僕はそう言いながら、今日の残った時間をアジトの案内に使った。そして、夜……いや、夜中。
何時かわからないけど、皆が寝静まったころサンタの赤い服を僕が着て、僕の服をサンタに着せ、僕は逃げ出した。サンタも誰も気づかなかった。



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