オリオン


北斗七星のアジトにはアルカイドしか居なかった。アルカイドは俺を見て、目を丸くし驚いていた。

「な、何でお前がいるんだ?」
「何だ。俺が居ちゃいけないのか?」

驚いているアルカイドの横を通り、中へと入る。中はこの間来たときより、すっきりしている。物が減ったのか?

「まさか、お前……また、チケットを……」

俺のことを警戒しているのか、睨まれた。別に睨まれても何とも思わないけど。
俺はアルカイドの名前があるベッドに座った。

「チケット何かいらないよ。それより、他の奴はどうした? すばるか?」

アルカイドの奴、意外といいベッドを持っていやがる。俺のなんかより、ふわふわじゃないか。
でも、アルカイドはやっぱり、アルカイドで、自分の紅茶だけを入れて俺に背を向けて椅子に座った。わざとだな。絶対。

「僕はもう、すばるには行かない」
「え? どうしてだ?」

突然のアルカイドの告白。アルカイドがどんな表情をしているのかはわからない。でも、どこか寂しそうに聞こえた。
そういえば、アルカイドは施設育ちで、その後子供がいない人の家に貰われたって聞いたことがある。
きっと、そこで何かがあってすばるに導かれたんだろう。

「オリオン。僕たちはいつまでも、子供でいられない。 結局のところ、自分と向き合い、逃げ出さないことで何かを乗り越えて行くんだ。 だから、僕はすばるを抜けて家に帰る。魔力ももう返してきた」

アルカイドの声は力強かった。こいつ、いつからこんなことを考えていたんだろうか。

「ズーベたちはどうするんだ? あんなにお前に頼ってたじゃんか」

「メグレズとミザルに頼んだよ。あの二人はまだすばるから抜け出せそうにもないから。ところで、お前は何しに来たんだ?」

ティーカップを置き、俺の方を見た。こんなアルカイドにあのことを話すのは何か、気が引ける。
アルカイドの奴、逞しくなりやがって。良い顔してるじゃん。反対に俺は、情けない顔をしているんだろうな。

「用っていうか、ちょっと話を聞いてもらいたくて」
「話?」

アルカイドが俯く俺を見て、不思議そうな顔をした。
アルカイドはただ、黙って俺の話しを聞いてくれたよ。心配するわけでもなく、バカにするわけではなく。

「お前さ、あの木箱を開ければ全部わかるんじゃないか?」

アルカイドの一言。確かに、あれが記憶を無くす前のことなら、それが一番早い。
そもそも、何で俺が記憶を失ったんだ? それにあの箱を見た瞬間、凄く嫌な感じがした。だから、あの時拒絶したんだ。

「確かにそうかもしれないけど、俺には……」

そんなこと出来ない。俺に、あの箱を開ける勇気はない。昔を知るのが怖いから。
でも、何だかアルカイドに話せて楽になったような気がするよ。

「もしかしたら、俺はあの箱を開けないと、自分と向き合えないのかもしれないな」

そう苦笑する。アルカイドは何も言わなかった。何も言わずに、メモ用紙に何かを書き渡してきた。何か書いてある。

「それ、今度から僕が住む家の住所。もう、魔法とか使えないけど、話くらいならいつでも聞いてやるよ」

メモから、アルカイドに視線を移すと、アルカイドは恥ずかしいのかぶっきらぼうにそう言った。
そうか、アルカイドの家の住所。俺は何だか嬉しくなった。

「ありがとう、アルカイド」

いつものようにニカっと笑い、俺は北斗七星のアジトを後にした。
俺が自分と向き合うため、自分から逃げないためにはやっぱりあの箱を開けなくてはならないのだろうか。
俺は俺で、変わらないのに。せめて、本当の名前だけでも知りたい。本当に、俺はオリオンなのか。本当は別の誰かなんじゃないか。
無数の星が輝く帰り道。絨毯に載って、そんなことばかり考えていた。



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