オリオン


すっかりアルカイドのところに長いしてしまった。もう少し、早く帰ってくる予定だったのにな。
そう思いながら、まだ明かりがついている星の住みかのドアを開けた。

「あ、オリオン。おかえりー」

中に入ると、直ぐにリゲルの声が返ってきた。ペテルギウスも奥に居る。帰ってきたのか。

「オリオン。遅かったじゃない。どこに行ってたの?」

ベラトリックスが心配そうに声をかけてきた。そうだよな、早く帰ってくるって約束したもんな。

「アルカイドのとこ。うっかり話し込んじゃって、遅くなっちまったよ。ごめんな。そういえば、あいつすばる抜けたんだって」

何かを言いかけるベラトリックスの言葉を遮り、ペテルギウスに話しを振る。ベラトリックスは何も言わずにため息をついた。

「どうりで最近姿が見えないわけだ。でも、こんな時にすばるを抜けるのか」
「こんな時?」

ペテルギウスは、本から顔あげたが、俺がそう聞き返すと、急いで本に視線をずらした。
あやしい。あきらかにあやしい。何かを隠しているな。でも、聞いても答えてくれないだろう。
ペテルギウスも、リゲルも。言わないなら、俺も聞かない。俺も言っていないことがあるから。
その後は、誰もすばるの話をせず、たわいのない話をして、眠りについた。

夢を見た。また、あの夢だ。海の中にいる夢。なぜ、海の中にいるのかわからない。
けど、海の中から空を見上げていると、そこに絨毯がやってきて俺を海の中から助け出してくれる。
そもそも俺は海なんて実際には見たことないし。なのに、どうしてこんな夢を見るのだろう。朝がきても覚えているのは何でなんだろう。




忙しい朝だ。三人は忙しそうに仕事へ行ってしまった。俺にはまだ、仕事が舞い込んでこない。
一人でこうしているのもアレだし、ポラリスたちの所にでも行って見ようかな。今日学校は休みなはず。
よし、そうと決まれば行動開始。しっかり戸締りをして、コートを着て。絨毯に乗って出発だ。

「あ、オリオンだ。オリオーン!」

ポラリスたちの家まで行くと、どこからかポラリスの声が聞こえてきた。
おかしいな、ここは上空で、ポラリスたちの部屋からは見えないはずだけど。どこにいるんだ?

「オリオン、ここだよ。こっち、こっち!」

今度はカノープスの声。俺も二人を見つけたよ。キョロキョロしながら見下ろすと、二人は中庭にいた。
中庭から、大きく手を振っている。俺も大きく手を振り、中庭に降りた。結構広いな。

「オリオン! 遊びに来てくれたの?」

こんなに寒くても双子は元気いっぱい。ポラリスが笑顔で問うた。

「まぁ、そんな感じだよ」

俺もニカっと二人に笑いかける。そうすると、二人の表情がみるみるうちにパアァと明るくなり、キラキラした目で俺のことを見た。

「ねぇ、オリオン! また絨毯に乗せてよ! 僕、絨毯に乗りたい!」
「僕もー。ねぇ、いいでしょー?」

ポラリス、カノープスの順で口々に絨毯に乗りたいと言い出した。
こいつらはいつも元気だな。今も外で遊んでいたのか? ボールが転がってるし。

「しょうがないなぁ」

俺がそう言うと、二人は嬉しそうに歓声をあげる。そんなに絨毯に乗るのが好きならいつでも言ってくれればいいのに。

「カノープス、ボール片付けてきて。出したのお前だろ。あと、母さんに言ってきて。出かけるって」

絨毯を広げなおして待っていると、ポラリスがカノープスにスピーディーに指示をだしていた。
カノープスも嫌がらずにそれに従う。やっぱり、ポラリスはお兄ちゃんなんだなぁ。 と、ボールを持って走っていくカノープスを見て思った。
気づくとポラリスは俺のことを見ていた。

「オリオン。少しだけ、いつもと感じが違う。何かあったの?」
「え?」

ポラリスのことを驚いた顔で見ると、ポラリスは心配そうな顔で俺のことを見ていた。

「何ていうか、ちょっと元気ないように見えたから……」

ポラリスはそう言って俯いた。いつも通り振舞っているつもりだった。でも、ポラリスにはそう見えなかったんだな。
結局誰かに心配をかけてしまった。

「大丈夫だよ。ほら、最近寒いから。もうすぐ雪だって降るだろう?」

俺は、そう苦笑するしかなかった。

「ならいいんだけど……。おーい! カノープスー! もっと速く走れー!!」

カノープスが飛び跳ねるように戻ってきた。全力で走っていのか、息はきれている。だけど、何か楽しそう。
母親にもOKを貰えたみたいだな。

「さて、行くか!」

カノープスが到着し、準備は整った。俺が掛け声をかけると双子は元気に頷き、俺たちは空へと向かった。

「わー! やっぱり凄いねー。凄く良い景色」
「あんまり乗り出すと、落っこちるぞー」

身を乗り出して下を見るカノープスの服を引っ張る。ポラリスは反対に上ばかり見ているな。

「今の僕たち、だいぶ高いところにいるけど、宇宙はもっと高いんだよね」

そう言ったポラリスの顔は、どこか大人びていて、希望にあふれている。この二人は変わったな。
自分と向き合い、未来を見ている。そんな二人が少しだけ、羨ましくなった。



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