ペテルギウス
そういえば、明日は父さんたちの命日だ。
この星空じゃ、明日もきっと晴れるな。もう、冬も終わって春だしな。春は好きだ。
あの時、俺はすばるから下を見ていた。すばるから、俺の家が見えたんだ。家族で暮らしていた家が。
小さい町だったけど、静かでいい所だった。父さんたちの事故で俺は病んでいたのかも。
お墓にもいかなかったし、おばさんとも口を聞かなかった。
俺の原因不明のイライラは増していったし、何でもかんでもイライラするようになっていた。
「おーい、ペテルギウスー」
下を見ていると、オリオンに声をかけられた。
多分、オリオンからすれば俺を見かけたから声をかけたって感じなんだろうけど。
おかしいな、あの時イライラは笑う選択をして、収まったはずなのに。また、俺はイライラするようになっていた。
「何だよ、何か用かよ。いつも、ヘラヘラしやがってお前、気色悪いんだよ」
今思うと何であんなにイライラしていたのかわからないけど、俺はとんでもない暴言を吐いた。オリオンはびっくりしていたよ。
「お前こそ、何だよ。いつもメソメソしやがって、男らしくない」
オリオンが黙って立ち去るかと思った。だけど、オリオンは立ち去らず、そう言い返してきた。
図星だったよ、別に泣いてはいなかったけど、オリオンの言うことは当たっていた。
「お、俺がいつメソメソしたんだよ! お前何かに俺の気持ちがわかってたまるか!!」
俺は、オリオンの方を向き、いつの間にかオリオンをグーで殴っていた。
オリオンは、殴られた反動で、よろめいたが、キっと俺を睨んできた。
「いって……何すんだ!!」
オリオンは殴り返してきた。その後はもう、殴り合いの喧嘩だよ。
幸い、ここはすばるの端っこで、人もいなければ誰にも見られていない。
喧嘩は俺の方が優勢だったけど、何故か勝てる気がしなかった。
「お前は泣き虫なんだよ!! 一人が嫌なだけだろ!!」
オリオンは殴りながら、俺の確信をついてきた。本当だよ、オリオンの言うとおりだよ。
一人が嫌だった。いつも、誰かがまわりにいるオリオンが羨ましかった。
笑うことをいつも選択出来るオリオンが羨ましかった。だから、俺はそれを見てイライラしていた。本当、子供だと思うよ。
「お前に、俺の気持ちなんかわかるもんか! 皆、死んだんだ! 一人で居るしかないだろ! 家に
帰っても誰も居ない、恨むべき相手も死んだ!! 俺は一人なんだよ、一人残っちまったんだよ!!」
そう言い返したことで、今まで溜めていたものが溢れてきた。
俺にはもう、誰もいない。一人なんだって。溜めていたものが、溢れて溢れて止まらなくなった。
止めたいけど、どうしようもなくて、何も出来なくて。俺はその場にしゃがみこみ、泣いてしまった。
殴られて痛いから泣いたんじゃない。
「お、俺は……父さんたちに謝りたい。何も出来なくてごめんって、俺は、俺は……、
これからどうすればいいんだよ……、一人は嫌だよ……」
何度、皆の所へ行きたいと思ったか。でも、俺にはそれが出来なかった。
わかっているさ、父さんたちはそんなこと望んでいないことぐらい。父さんたちの分まで生きなきゃいけないことぐらい。
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