ベラトリックス


「いてて……ちくしょう、止まれなかった」

突っ込んできた何かは、窓ガラスの破片で怪我をしていたが、そんなことはどうでもよかった。
とにかく、私は驚いて、暫く固まっていた。徐々に恐怖が湧きあがってきた。どうしよう、誰かに知らせないと。

「ど、どろっ……むぐっ!?」

私は、そう大声をあげようとした。だが、オリオンの手で口を塞がれ、それは声にならなかった。

「落ち着いて、あやしいものじゃないから」

オリオンは落ち着いた声でそう言ったわ。私を宥めるように。
落ち着けるはずがない。いきなり窓ガラスが割れ、知らない男の子が突っ込んできた。落ち着けるわけがない。
私の部屋の近くには誰もいないのか、窓ガラスが割れた音を聞いても誰もこなかった。

「お願いだから、大声をあげたり叫んだりしないでくれ」

オリオンはそう言って、私の口を塞いでいた手をどけた。悪い人にはみえない。
私は叫んだりはしなかったけど、ジロジロとオリオンを観察した。

「ごめん、驚かせちゃったね。急いでたら止まらなくなっちゃったんだ」

オリオンは持っていた絨毯をクルクルっと丸め、脇に抱えた。
この時は何で絨毯何か持っているんだろうって思った。
私は、少しワクワクしていた。この子と遭ったことで、何か新しいことが始まる気がした。
どうやって、突っ込んできたとか、何に急いでいたのかとかね。
この時の私は、まだ魔法の存在は知らなかったし、信じても居なかった。
でも、直感的にそれを感じ取っていたのかもしれない。この不思議な男の子にワクワクしていたんだ。

「窓ガラス、どうしてくれるの。粉々じゃない」

私は割れた窓を見た。チロリとオリオンを見ると、オリオンはニカっと笑ったわ。

「大丈夫。俺がどうにかするよ」

オリオンはそう言って、割れた窓ガラスの破片を拾い集め、何かよくわからない言葉を言った。
その言葉が言い終わると、オリオンは割れた窓ガラスを窓に向かって投げた。
頭がおかしいんだと思ったわ。私は魔法を知らなかったから。
投げられた窓ガラスは、いつの間にか一枚の元の窓ガラスに戻っていた。私は思わず目を疑ったわ。何が起こったの? ってね。

「あ。けがとかしてない? 大丈夫?」

突然、オリオンが私の方を向いた。ちょっとだけ、驚いた。
特にけがはしていないけど、これは、もしかして、もしかしなくても私のことを心配しているのだろうか?

「大丈夫。それより、今のはどうやったの? 貴方は何者?」

何だか胸がドキドキしている。こんなの初めてだ。ワクワクして、ドキドキしている。
この子のことが気になってしょうがない。オリオンは、ニカっと笑った。

「今のは魔法だよ。俺は、魔法が使える普通の人。ただそれだけだよ」

魔法!? びっくりしたわ。でも、あの窓ガラスが直ったのは確かにそれ以外考えられない。
それから、オリオンは色々な話をしてくれたわ。すばるのこと、ペテルギウスとリゲルという仲間のこと。絨毯のこと、魔法のこと。
今思えば、一目ぼれだったのかもしれない。



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