ベラトリックス


スーパーの中は予想通りだった。品物があんまりない。
でも、何個か残ってたし、お金も足りそうだし、大丈夫ね。あらかじめ決めておいたものをレジに持っていって、会計をする。
ほら、お金足りたわ。余ったくらいよ。でも、少し荷物が重いわね。リゲルでも連れてくれば良かったかしら。

「あ、すみません」

スーパーを出た時、黒い髪の女の人とぶつかった。夕方だっていうのにまだ混雑しているスーパー。
レジの所でも、何人かとぶつかったわ。この女の人はスーパーの袋を持っていないから、これから買い物なのかしら?

「いいのよ」

女の人はにっこりと笑った。優しそうな女の人。でも、何だかどこか怖そうな感じがした。
そうか、この人、目が笑ってないんだわ。だから、怖いと感じたんだ。

「ちょっと聞いてもいいかしら? 私、オリオンって子を探しているんだけど。 ちょうど貴方と同じくらいの歳よ? 知らない?」

心臓がドクンと大きく波打った。
オリオンを探している……? ペテルギウスが言っていたことが頭の中でぐるぐる回る。
心臓が大きく早く波打つ。今にも壊れそうなくらい。緊張しているのか、手汗が酷くなってきた。
どうしよう、どうすればいいの? まだそうと決まったわけじゃない。
でも、そうよ。冷静になりなさい、私。もし、この人がそうなら、早くこの人から離れないと……。

「どうしたの?」

女の人は私の顔を覗き込んだ。体がビクっとした。
手が汗まみれで気持ち悪い。心臓も煩い。でも、でも、自然に振舞わないと。不信がられないようにしないと。

「わ、私は……」

あぁ、何て情けないの。こんな時に声が上手くでないなんて。
オリオンを守るって決めたのに。女の人は意味深に笑った。

「そう、知っているのね」

私はいつの間にか走り出していた。それも、全力で。ただ、必死に。振り返らずに。
とにかく走った。一息もつかずに。
星の住みかに着いた時には、汗びっしょりで、苦しかった。うまく息が出来なかった。



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