ベラトリックス


順々に外に出て、星の住みかを離れようとした。その瞬間だった。

「うわっ!? 何だ?」

オリオンがまるで誰かに引っ張られているみたいに、私たちから離れて行った。

「オリオン!!」

ペテルギウスが、リゲルがオリオンを掴む。
それでも、見えない何かはオリオンをグイグイと引っ張っている。私も、オリオンを掴む。

「一体何が起きているの?」

理解できない。いや、きっと魔法の類だとは思うんだけど、私は魔法に慣れていないし、一体何が起きているの?

「誰かがオリオンを引っ張っているんだ。うわっ!?」

ペテルギウスがそう言い終わるやいなや、くんっと凄い勢いで、オリオンが引っ張られた。
オリオンを掴んでいる私たちも一緒に。それだけ、強い力で引っ張られたのだ。

「うわっ!?」
「いでっ!」

引っ張られて、私たちは土の上に落ちた。
顔をあげると、私たちは星の住みかの前に居て、私たちの前にあの人が立っていた。
スーパーで遭った女の人。この人がオリオンを引っ張っていたのね。

「あぁ、オリオン!」

女の人はオリオンを見るなり、私たちから引き離し、強く抱きしめた。オリオンは突然のことで驚いていたわ。

「あ、あの? ちょっと? あなた、誰ですか?」

オリオンは困惑していた。だって、記憶がないもの。この人が誰だかわからなくて当然だわ。

「オリオンを離せ!」

事情を知っているペテルギウスがそう声を上げた。

「そうね。じゃあ、取り合えず皆、中に入って貰えるかな?」

女の人はにっこりと笑った、私たちはその笑顔が怖くて、恐怖で震えていた。リゲルがぎゅっと服を掴んだのを感じたわ。
だって、私たちわかってしまったんですもの。この女の人が、オリオンを人質にしたことに。
断れば何をするかわからない。そもそも人質を取られている以上、私たちは大人しく従うしかないのだ。
私たちはドアから星の住みかへと入った。最後に、女の人がオリオンと入ってきて、女の人は魔法でドアに鍵をかけた。
全ての窓とドアに鍵をかけた。これで私たちはどこにも逃げられないし、外からの助けも呼べなくなった。
この女の人をどうにかしない限りは。

「私はね、太陽になりたいの。だって、太陽は幸せになれるんですもの。だから、ごめんね?」

女の人はそう猫なで声で言い、私たちに向かって火の玉を投げてきた。どこから火を出したのか、きっと魔法を使ったのね。
その火いくつもの火の玉に分裂し、地面に落ちた。
地面に落ちた瞬間、私たちの周りに火の壁ができ、火にかこまれますます逃げ場がなくなった。
そう思っていた。思っていたけど、隣に居たペテルギウスが何か呪文のような物を言ったあと、手から水を出し、火を消した。

「おあいにく様、俺は水系の魔法が得意なんだよ」

ペテルギウスは、そうニヤリと笑ったが、私と同じ恐怖を感じているのか冷や汗をかいていた。

「やるじゃない。なら、これはどう?」

女の人はニタっと笑い、人質にしていたオリオンの首を締め上げた。

「お、オリオン!!」

リゲルの悲痛な叫び声。
守るって決めたのに、どうして足が動かないの? どうして、声が出ないの? 助けなきゃ、オリオンが苦しんでいるのに。
もう! この足は何をやっているの! 行かなきゃ、助けなきゃ。だって、あんなに苦しそう。だから、動くのよ!!

「ベラトリックス!」

ペテルギウスの声が聞こえた時には、私は女の人を突き飛ばしていた。
突き飛ばした拍子に、オリオンは床に落ち、苦しそうに咳き込んでいた。良かった、助けられた。
私の足も偉いわ、動いてくれたのね。

「何で、邪魔をするの!? 私だって、幸せになる権利はあるはずよ!」

女の人は、急にヒステリックを起こしたように騒ぎ立てた。

「太陽になれば、幸せになれるの! 邪魔をしないで!」

「そんな考えじゃ、いつまでたっても幸せになんかなれやしない!」

私は、いつの間にか言い返していた。おかしいな、さっきまで怖くて仕方がなかったのに。
でも、間違っていることは言っていないと思うの。



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