平成百鬼夜行〜風人伝〜


そんなわけで、俺たちは学校も終わり裏山にやってきた。
もしこんなとこを親父にでも見られたら「徹平にもう友達が出来たのか」とか感激されそうだ。
言っとくが聖は友達じゃねぇ!

「で、その樹木子はどの木なんだよ? てか、大体なんでそんなやつが裏山にいんだよ」

俺はぶつぶつと文句を言った。
こんなに木がいっぱいあるんだから、どれだかわからねぇよな?
しかも足場悪いし…。

「樹木子は、人間の血を大量に吸い込んだ樹木が樹木子になると言われているが…。まさか昔この裏山は戦場だったのか?」

聖はそう言い頭を抱え悩みだした。
俺のことは無視ですか、あーそうですか。相変わらずムカつく奴。
そんなことは置いといて…。もし昔戦場だったんなら幽霊とかいそうだよなぁ。昔は幽霊とか信じてなかったけど、妖怪がいるならいてもおかしくない。
そもそも木がどうやって人間の生き血を吸うんだ? むしろ何で木!!? って感じもする。
吸血鬼木バージョンかよって感じだよな。
それに大体聖は…。

「徹平! その木から離れろ!!」

俺は聖の叫ぶその声で現実に戻ってきた。
俺はいつのまにか、他の木より少々赤がかってる樹皮の木の前にいた。

「あぁ? この木がどおしたんだ?」

俺は軽く木を叩いた。

「いいから離れろ!! そいつが樹木子だ!!」
「はぁ?」

俺は木をよく見た。
何だか枝が生きてるみたいにうねうね動いている。

「……うわぁ!!? やべぇ!!」

俺はそのうねうねがキショく悪く、この赤い樹皮の不気味な木から急いで離れようとした。

「うわっ!!?」
「徹平!!」

が、時遅く俺はその木…樹木子の枝に絡み取られ、そのまま持ち上げられた。
俺の足が地面を探し、ぶらぶらと宙を浮いている。
そのさいに俺は学校の鞄を落とした。

「いっ……苦しっ……」

枝は俺の首や腕、体に巻きつき…そのまま力いっぱい締め付けてきた。
苦しい…窒息しそうだ…。
新しい枝が俺の近くにきた。その枝は、先っちょの方が注射器のように尖っていた。

「聖!! 何とかしろっ!!」

俺はそう叫び、暴れた。
だが暴れたせいか、よけいに締め付けられ、さっきより苦しくなった。
例の尖っている枝の先端が俺の首筋に刺さった。

「…つぅ!!」

枝は深く刺さったせいか、刺されたところから血が出た。
俺は急に自分が冷たくなっていくのを感じた。
じゅるじゅるという、何かを吸う音と、刺されたところから心臓の鼓動が聞こえた。

「ひじっ…!!」

俺は必死で聖に助けを求めた。
聖は少し慌てていた。

「今、ここで黒影を放てばお前も餌にされるぞ!! 待ってろ、今助ける方法を考える!!」

聖は少しイライラしていた。
俺は段々と意識が遠のいていくのを感じた。
何でこんなとこにきちゃったんだろう…。俺はもう駄目なんだ。
何で…。

急にズバッという何かを斬る音が聞こえた。
俺はドサッと土の上に落ちた。

「よくも天狐め、土人様に栄光あれ」

低い声でぼそぼそ言う声が聞こえた。樹木子の声だろうか?
樹木子は斬られた枝をひっこめ普通の木になりすませていくのを見た。

「徹平!!」

聖が俺の方に駆け寄ってきた。
俺に巻き付いている枝は樹木子から離れたにも係わらずうねうねと動いていたが、聖が枝を取ってくれた。
枝を斬ったそいつは、ひらりと俺たちの前に姿を現した。

「銀色の狐……」

そう、そこには4本の尻尾を持つ輝く銀色の毛並みを持った狐がいた。

「銀河さん」

俺は聖のその言葉を最後に意識を失った。



  BACK|モドル|>>NEXT