平成百鬼夜行〜風人伝〜
風森の前にはでっかい石で出来た鳥居があった。
勿論俺たちはその中から入ったさ。風人様に怒られても嫌だもんな。
「何か…この森、凄く神秘的」
翔子がキョロキョロとまわりを見ながら言った。
確かに翔子の言う通りだ。
木々の間から光がさし、風はやむことを知らないように吹いている。
そして、その風により木の葉が踊るように舞う。
どこかで見たことがあるかもしれない風景なのに、どこかが不思議でたまらない。
どこかで見たことがあるかもしれない風景なのに、何故こんなに神秘的に感じでしまうんだろう?
俺たちはさらに奥に進んだ。
「あれ? お兄ちゃん、ここさっきも通らなかった?」
暫く歩いていると翔子がそういった。
「違うだろ? 森の中は似たような風景が多いし…。そんなに不安なら取り合えずこの木の前に石を積んでおこう」
俺は近くにある石をたくさん拾い、細い木の前にピラミットのように積み上げた。
その作業が終わると、俺たちはさらに奥に進んだ。
「あれ? お兄ちゃん、ここさっきも通らなかった?」
暫く歩いていると翔子がそういった。てゆーかこのセリフさっきも言ったじゃん。
俺はまわりをキョロキョロと見た。
あ……。細い木の前に石が積み上げてある。
「通ったな…。もしかして……俺たち……」
ザワザワザワ。
急に強風が吹き、木々がざわめき始めた。
「馬鹿だなー。まぁ、この風人様の森に入る度胸は認めるけどね」
木々のざわめきと一緒にそんな声が聞こえた。
「翔子、何か言った?」
俺がそう言うと翔子は首を横に振った。
「私は何も言ってないけど…。お兄ちゃんは何か聞こえたの…?」
「いや、多分俺の気のせい」
俺たちはまた歩き出した。
といっても何だか同じところをぐるぐる回ってるような気がした。
それに、その妙な声が聞こえてから妙な視線を感じるようになった。
……誰かに見られている? 俺はキョロキョロを視線の主を探した。誰もいない。
「ぷっ! 人間って面白いなー。ちょっとびっくりさせてやろっとっ!」
……? また妙な声が聞こえた。
急に森全体が、風でがたがたゆれだした。
「きゃぁぁあぁあぁぁ!!!」
翔子が悲鳴をあげ、俺にひっついてきた。
「こらっ!! ひっつくな!!」
「だって怖いんだもん!!」
翔子は少し泣きそうだった。
女って…ガキってめんどくせーなぁ〜…。
「っぷ!! くっ…やばっ…苦し!! ぷっくくく……!! ってうわ!!」
今度は妙な笑い声と、その後にドスンという何かが木から落ちてくる音が聞こえた。
「え?」
俺は思わずそれをみて声をあげた。
落ちてきたのは俺と同じくらいの年頃の男子だった。
「くっそ〜……おもいっきり背中うった……」
そいつは、アイテテと背中をさすりながら起き上がり、俺たちの方を見た。
「お前らサイコー!! すっげ、笑ったよ!!」
そいつはケラケラと腹を抱えて笑い出した。
「も、もしかして…か、風人様!!?」
翔子がはっとした顔で言った。
俺もそいつの事を見た。
「出来れば風太って呼んでほしいね」
「風太?」
俺は何故か顔をしかめた。
ホントに何でかはわからないけど…。
「そ。俺の名前。お前らは?」
風太が俺たちに笑いかけた。
「わ、私は翔子! 永田翔子!!」
翔子が目をキラキラさせて言った。
「俺は徹平。翔子は俺の妹な」
俺はそっけなく答えた。
てかいつのまにか夕方になっている。
「さてさて、子供らよ。もうすぐ外は暗くなる。帰らないと妖怪に心の蔵から何まで食われちまうぞ?」
風太は奇妙に不気味に笑った。
ホントにこいつ風人様か? それに妖怪なんて今時いないだろ…。
急に背中に寒気がはしった。それに嫌な感じがする。
後ろの草むらがザワザワ動いている。
「ちょーっと遅かったね。子供らよ、俺の前に立って」
俺と翔子はお互いに顔を見合わせた。
取り合えず俺たちは風太のいう事に従うことにした。
俺たちが風太の前に立つと、風太は俺たちの背中に手をかざした。
「さて、木々や鳥にはご注意を!! ぶっとべ!!!」
俺たちの背後に強風が吹いた。
その瞬間俺たちは風に飛ばされて空を飛んでいた。
「うわぁあぁああぁあぁぁあぁ!!!!」
「きゃぁああぁぁぁぁ!!!」
俺と翔子はびっくりして叫んだ。
「何!!? 凄い!! 風が、風が私たちの事を運んでる!!」
翔子が感動した声をだした。
「じゃあな!! また来いよ!!」
風太が後ろで手を振りながら笑っていた。
俺たちは振り返って風太を空から見下ろした。俺はいつのまにか笑顔になっていた。
なんか…面白い事がおきそうだ。
週刊誌やゲームよりもっと面白い事が。
「ふあ〜。ねぇ、風太。今だれかいた?」
俺たちが見えなくなったあと、あの動いた茂みから灰色の髪の男子が眠そうに顔を出した。
「あ、銀河やっと起きたんだ。ん。すっげ面白い奴。きっと銀河も気に入るよ」
風太は笑っていた。
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