平成百鬼夜行〜風人伝〜


「どうやら入り込めたようだね」

銀河がこそっと俺たちに言った。横から覗いてみると、あの社までは舟で渡っているのが見えた。きっと、俺たちも舟で行くんだろうなぁ。

「銀河さん、鈴音さん、あのここは?」

どうやら今目の前に広がる景色には聖も驚いているみたいだ。よかった、俺だけじゃなくて。
なんか俺だけだったら場違いっていうか、少し恥ずかしくない?

「ここは……俺たちが宴会をやる場所だ。ついに妖怪の世界に入り込んだんだ。といっても、ここはただの一角にすぎないけどね。もっと進めば村とか都だってあるよ。ほら? 神隠しって聞くだろ? それは人間がうっかりこっちの世界に入ってきてしまったことをいうんだ」

銀河は丁寧に説明してくれた。なるほど、神隠しってそうゆうことだったのか。
きっと、急に消えて帰ってこなくなった人は妖怪の世界で住んでいるんだ。帰り方がわからないとか、妖怪で好きな奴でもできたんだろう。
暫くすると列は急にとまった。まだ皆、あの社に行ってないのに。前の方にいたってはなんだが騒がしい気がする。
舟が沈んで定員オーバーとか?

「どうしたのかなぁ?」

流石のあの鬼童丸も不安そうに見える。ホントに何があったんだろ?

「湖が……波うっています」

前の列にいた朱璃って人が銀河たちにそう言うのが聞こえた。
俺には見えないけど、銀河たちには何が起こってるのかわかるのか? それに、湖が波打つってどーゆうことだろ? 湖には波なんてないし。

「どうやらでかい鯉が住み着いてしまっているようだよ」

朱璃さんの旦那さん、確か禰禰って名前だって言っていた気がする。
まぁ、とにかく旦那さんがそう言った。俺には何も見えないけど、一瞬だけ水しぶきが見えたような気がした。

「そういえば、知り合いの万屋(よろずや)がそう言ってた。小さな鯉が突然、なぜか知らないけど巨大になってしまい、百鬼夜行のときではないが、用事があり社に行ったものの舟を沈めてしまったらしい」

旦那さんはそう続けた。朱璃さんも「このままじゃ、社にいませんねぇ」と言っている。
きっとまたその鯉が舟でも沈没させようとしているのか、暴れているのか。だから俺たちは困っているのか!
銀河と鬼童丸は旦那さんと朱璃さんとどうすればいいのか話している。

「さて、どうするかねぇ」

鈴姉さんは何だか楽しそうだ。

「あたしらはお祭りが好きだから、こんなことで邪魔されちゃぁ困るんだよねぇ」

俺には鈴姉さんが何を言っているのかよくわからなかったけど、聖はわかったのかなって聖の方を見てみると聖もよくわかってなさそうだ。黒影にいたっては、同じ犬だからか旦那さんに頭を下げているようにも見えたけど、眠いだけかもしれない。

「さぁて、こんなことが出来るのはあいつだが、いったいどうやって渡ればいいかねぇ」

鈴姉さんの呟きが闇に消えた。



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