平成百鬼夜行〜風人伝〜


空気がギズギズしている。この原因は銀河と旦那さんだ。1人の女を取り合いしたら、こんなにも仲が悪くなるものだろうか。

「禰禰、銀河殿。そんなに睨みあっては、皆が困ってますよ?」

朱璃さんが、ギスギスした2人の間に入った。
嫌だなぁ、この舟そんなに広くないのにこの空気!!

「何だよ、俺たち昔馴染みだろ? 殿なんていいよ。俺も呼び捨てにするけど、いいよね?」

おいおい、相手は人妻だぞ。銀河の奴、あきらかに旦那さんを挑発してるよ。きっと、これは旦那さんへのあてつけなんだろうなぁ。

「かまいませんけど……」

朱璃さん、機嫌の悪い旦那さんをチラチラとみてる。あぁ、嫌だな、空気悪いな。
誰かどうにかしてくれよー。皆黙っちゃってさー。
って、そんなことを思っていたら舟はいつの間にか平等院鳳凰堂みたいなところについた。そんなに永くなかったと思うが……長かった。

「何、こんかいはずいぶん人数が多いじゃないのさ」

鈴姉さんが、もうすでに騒いでいる妖怪たちを見て言った。

「て、ゆーか、お前が来てることが珍しいけどな」

銀河、いいかげん挑発するのはやめろ。大人げないぞ。
ほら! 旦那さん、イライラしてるよ。

「私が一緒に来てって言ったんですよ」

朱璃さんが、穏やかに言った。何か、恋愛って面倒だな。

「そんなことより、何で今日はこんなに人数が多いんだろうねぇ? ほら、向こうを見てみなよ。もう騒ぎ始めてるよ」

鈴姉さんが、キャーキャーと騒がしい方を指差した。
にしても、さすが鈴姉さん! 場の空気をかえた!! 今じゃ、皆その指した先を見ている。
にしても、騒ぎすぎじゃないか?

「あれは……本当に宴会をやっているんでしょうか? 俺にはそうは見えないんですけど」

どうやら、聖も何か妙な感じに気づいたらしい。

「確かに。騒がしい中に悲鳴が混じっているな」

俺にはよく聞こえないけど、旦那さんには聞こえるらしい。でも、変な音は聞こえた。

「あれは、きっと怖がっているみたい……」

鬼童丸は、旦那さんのセリフもあってかすっかりおびえてしまい、銀河の服をつかんでいる。
て、ゆーか、何か皆こっちに向かってきてないか? 何かから逃げるように。
ここからじゃ、妖怪が多すぎて何があったかよくわからない。

「あ!! 黒火師に小金!!」
「ん? お、銀河か。久しぶりだな」

男の人と女の子がこっちに来るのを見て、銀河が声をあげた。しかも、結構デカイ声。そのためか、男の人の声は小さく感じた。別に小さくはないんだろうけど。

「おお、鈴音に鬼童丸もいたか。なんだ、珍しいな。橘(たちばなの)ご夫妻もいるではないか。与壱や弟の緋蒲は元気か?」
「はい、父も弟も元気ですよ」

すっかり世間話みたいだが、朱璃さんは相変わらず人当たりがよくて……。

「そうかそうか。ん? そっちの2人は誰だ? 布なんかつけて。まぁ、そーいった奴はたまにいるが。鯉を倒した子たちか?」

男の人、多分黒火って方だ。やっぱり、俺たちのことを不審に思ったらしい。ば、バレてないよね?
でも、銀河がフォローしてくれた。

「風太の森の新人です。あの、何があったんですか? ここからじゃ、よく見えなくて……」
「あ? ああ、俺たちも先にいた奴らにこれ以上来るなといわれて戻ってきたんだが、どうやら今日の宴会はお開きらしいな。そのおかげで、ほら。皆舟で帰って行くが……この湖には鯉以外にも、あいつがいるからな……」

黒火さんの言うとおり、皆舟に乗って帰っている。定員オーバーで沈みかけているのも気にせずに。
そんなとき、カタカタと地面が揺れているように感じだ。

「地震……?」

聖がつぶやいた。

「あー、やっぱあいつ起きたか。普段は大人しいやつなんだけどなぁー」

黒火さんがそうブツブツ言ってるときにも、地震は大きくなり、震度7くらいに!!?

「ぎゃー!!! 地震ー!!!!」

皆落ち着いている中、俺はすっかりパニックに陥り……少し恥ずかしくなった。
でも、皆その場に座っていた。

「湖には地震ナマズがいるんだよ。あの騒ぎで起きて暴れ出したんだろうなぁー」

銀河、この状況で……!! みんな落ち着いてるけどさ。
湖の方でも、悲鳴が聞こえる。舟でも転覆したのだろうか?
ついには、入口出口には柱のようなものでふさがれ、俺たちは閉じ込められてしまった。



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