平成百鬼夜行〜風人伝〜
「うわぁあ!? 水ぅ!!? 俺、濡れるの嫌だー!!」
その大量の水を見るなり、銀河がそう言った。
俺たちは一応、さっきの場所から離れたんだけど、結局どうしようもなく、佇んでいる。
「あたしだって濡れるのは嫌さ!」
鈴姉さん、猫だから。やっぱり、濡れるのは嫌なんだ。
とりあえず、黒火さんがこっちにいこうと誘導してくれたので、俺たちはそっちへ行った。皆が離れ離れにならないように気を付けて。
俺は、ただがむしゃらに逃げているだけだと思ってたんだけど、そうではなく、壁に穴があいているところに出た。
随分と不自然な穴だけど、さっきの地震で穴が開いたのだと思った。
「こ、この気配は!?」
「お、聖はわかったか。俺たちは匂いで解ったんだけどな」
銀河が、自分の後ろにいる鬼童丸の頭をなでながら言った。
俺は聖の言うことも、銀河の言うこともよくわからなかったけど、こっちに逃げてきたのには理由があるのか? 俺はわからないけど。
取りあえず、俺たちは黒火さんの言うとおり、準番に穴から出た。
俺はきっと、濡れるんだ。って思ってた。だけど、俺たちが穴から外へでると、なんだか白いものの上に降りた。
白くて長細い……?
「久那、悪い。暫く乗っけといてくれ」
銀河のそういう声が聞こえた。え、まさか、これって……。
「これって、あの時の久那ノ神様!?」
俺はひっそりと聖に聞いた。
そう言えば、久那ノ神様は白龍だったっけ。こいつも、そんな感じだよな。
「何だ、今頃気づいたのか。お前も久那ノ神様の姿は見ただろう」
聖は相変わらずだ。何だよ、また俺だけわからないパターンかよ。この、パターンいい加減にやめてくれ。
しかも、久那ノ神様は急に乗っかられたのかが嫌なのか、少し怒っているようにも見えた。
「さて、小金。俺たちは帰るとしよう」
「はい、お父さん。早くしないと、お母さんに怒られちゃうからね」
「え!? 師匠に小金、もう帰っちゃうんですか!?」
狐たちがそう話しているのが聞こえた。
「帰る前に、風太がどこにいるか教えてください! 師匠の千里眼なら解りますよね?」
「そうだなぁ、解らなくもないが。これも、修行だぞ。お前は千里眼使うの苦手だしな。俺がお前に言ってやれることは、風太の性格を考えろってことぐらいだな。どうしても解らない場合は、この湖を超え、妖怪世界とこの場所の境界に祠がある。そこに行ってみなさい」
黒火さんは、そう言い残し小金ちゃんと連れ、久那ノ神様の上から煙のように消えた。
何だか、不思議な人……いや、妖怪だった。
「祠、もしかしてあたしはその祠を知ってるかもしれないよ」
どうやら鈴姉さんも、銀河たちの話を聞いていたようだ。
さすがの聖もこの話にはさっぱりらしく、俺はついに仲間を得た。
「禰禰と朱璃はどうするんだい? あたしらが巻き込んじゃったみたいなもんだから、帰るだろ?」
鈴姉さんは、そう旦那さんに聞いた。
「帰りたいのは山々なんだが、私たちはその祠の方から来たからね。それに、さっきまで湖にいた者がそっちの方向にいる。多分、水人だと思うがね」
「やっぱり、水人かい。やっかいだねぇ」
水人。また、変な単語が出てきた。どっかで聞いたこともあるような気もするけど、もう忘れちまったよ。
俺は、その水人ってのを銀河に聞こうと思ったんだけど、銀河は湖の上を見ていた。
「おい、禰禰。お前が水人なんていうから、向こうから来ちまったじゃねーか」
銀河の視線の先には、女の人がいた。しかも、湖の上に立っていた。
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