平成百鬼夜行〜風人伝〜


暫くして美優さんは聖を連れて戻ってきた。
どう見ても奴の隣には赤目の黒い犬がいるよな。

「ねぇねぇ、お兄ちゃん。あの子ちっちゃくない? 幾つくらいなんだろ? ちっちゃくて可愛いよね?」

翔子が聖に聞こえないようにぼそぼそと言った。
そっか翔子は朝畑にいなかったから知らないんだよな。
てか、可愛いって何!!? こいつ、小さい奴が好みなの!!?
よし、小さい奴はマークしよう。んで、まともじゃない奴だったら翔子に近づけさせない。
……俺はシスコンじゃねぇ!!
俺は年上美人さんが好きなんだ。そう、美優さんみたいな人が。って違う!! 俺は普通だ!!

「お兄ちゃん? どうしたの? また1人の世界入ってたの?」

翔子が俺の顔を覗き込んだ。
そのとおりだよ、俺はまた自分の世界に入ってたよ。

「あいつは俺とタメだよ。親父が言ってた」

俺はさっきの翔子の質問に答えた。
そこで俺たちは会話を止めた。
美優さんたちが近くに来たんだ。

「あ、今朝畑にいた子。黒影が見えたって本当?」

聖が言った。俺はコクッと頷いた。
翔子がちょっとキラキラした目で聖を見てる。

「見ちゃいけないものなのか…?」

俺はおずおずと聞いた。
今は翔子の事を気にしている場合ではない。
あ、でもついに聖から目を離し隣の黒影を見た。

「別にいけなくはないけど…。今までにこうゆう事はあったの? 他人が見えないものが見えたり…」
「ない…と思う」

俺はなんだか不安になってきた。

「昨日、風太が、風人が見えたけど…風太は誰にでも見えるんだよな?」

風太、俺がその名前を口にすると美優さんと聖の顔色が変わった。

「風太さん、風人様が見えたの?」

聖が目を丸くして言った。
俺はおそるおそる頷いた。

「え? 誰にでも見えるものだろ?」

そして俺は首をかしげた。

「誰にでもだって!!? バカな事を言うんじゃない!! 風太さんは自分の姿を人には見せないようにする術を知っている。それは風と同化すること。黒影は…神社外では人に姿が見えないように俺がしてるけど…。赤目の犬なんて珍しいから注目されちゃうからね。それより、風太さんをどこで見たんだ?」

聖は俺の事をジロリと見た。
俺は気持ち後ずさりした。

「風森だよ。あいつ、俺たちの事からかって遊んでやがった」
「風森だって!!?」

聖はすっとんきょうな声を出した。
俺は、ちょっとびっくりした。
てゆーか聖な何故そんなに驚く。風森は風太の家みたいなものだろ?

「風森は風の力で満ちている。まずあそこで風太さんの姿を見るのは不可能と言われている。いくら風太さんが姿を現し近くにいても絶対気付かないんだ。実際俺が風太さんと会ったのはこの神社だし…。そっちの子も会ったの?」

聖は翔子の方を見た。
聖と翔子……目線が大体一緒だ…。
翔子は慌てて黒影から目を離し聖の方を見て頷いた。



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