平成百鬼夜行〜風人伝〜


「あーあ。何だかジェラシー感じるなー」

聖が大きく伸びをして言った。

「風太さんが見えるのは俺だけだったのに…。俺、結構霊力高いからさ。まぁ、神社の息子だし? あ、そういえば紹介まだだったよな。俺は立花 聖。こっちは山犬の黒影だ。山犬って言うのは知ってる?」

俺と翔子は聖の問いに対して首を横に振った。
山犬っていうくらいだから、きっと山に棲んでる犬だと思うが黒影は神社にいるからなぁ…。

「山犬はよく呪術の犬神とかと同一視されるけど、立派な妖怪だよ。少なくとも黒影は呪術じゃないってこと。あ、でも山犬の事を犬神っていうとこもあるからどうなんだろ…。山犬は別名狼って言われていて、本当なら山の中に棲んでるんだけど、黒影は俺に憑いちゃったから俺と一緒にいるんだ。本来なら生魚を持って山の中に入ると、その生魚を取ってたりするんだけど、人間を守ってくれる場合もある。山犬憑きになっても良いことばっかだし、例えば山犬憑きには他の妖怪は憑かないとか、迷った時道案内とかしてくれるとかね。それにこいつはイイコだし、可愛いしね。大きさはまだ小さいほうかな? もっとデカイのとかいるし」

聖はそう言い、黒影の頭を撫でた。
黒影は嬉しそうな顔をした。ような気がした。
こう見てると普通の犬とあんまり変わらないよなぁ…。
妖怪って言われても実感わかねぇや。
先に風太に会ってなかったらきっと信じてなかっただろうし。

「風太さん以外の方には会ったの?」

聖がまたしゃべりだした。
こいつって以外とおしゃべりだな。
とゆーか俺たちの自己紹介はしなくていいのか?

「風太以外の奴がいるのか?」

俺はチラッと黒影を見た。
まさか、こいつの事じゃねぇよな。
聖は俺が黒影を見たのに気付いたようだ。

「黒影は関係ないよ。あの方たちとは俺もあんまり会った事ないからなぁ〜…」

聖の語尾が段々と小さくなった。

「あの方たちって誰だよ? また妖怪か? てゆーか何でここそんなに妖怪とかいるんだよ…」

俺がそう言うと、何故か聖に睨まれた。
俺何にも悪いこと言ってないじゃん!!

「言っておくがあの方たちはその辺の下っ端妖怪とは違う!! あの方たちはどっちかっていうと風太さんみたいな神に近い。それと、妖怪が多いのはこの土地にさまざまな伝承や伝説が残ってるからだよ。自然も豊かだしね。これでも俺が小さい頃の時に比べたら随分と減ったほうだよ」

聖はふぅと残念そうにため息をついた。
確かにここは自然が豊かだよな。
あ、だから都会では妖怪とか見なかったんだ。伝承とかも無かったし。

「それより、君たちも早く自己紹介してくれよ。俺だけして不公平じゃないか」

……何こいつ。
何この聖って奴!! お前がずっとペラペラじゃべってたんだろ!!
俺たちの入るスキもなくペラペラと…。
自己中にも程があるぞ、コラ!
こいつが美優さんの弟だなんて絶対認めないぞ!!

「俺は永田 徹平」

ふん。ほら、自己紹介してやったよ。仕方なく!!
これで文句ないだろ!!

「私は妹の翔子よ」

翔子が聖に笑いかけた。
しかも今まで見たことがないとびっきりの笑顔で!!
おい! 翔子! お前はまだ思春期じゃねぇだろ!! 小学生に色恋沙汰は早すぎる! それに、こいつだけは絶対ダメだ。
何ども言うが俺はシスコンじゃねーぞ。
翔子の事を心配してだなぁ。

「お兄ちゃん? お兄ちゃん? また自分の世界入ってた?」

突然翔子の声がした。
何だかスポットライトを消された気分になった。
聖はいつのまにかいなくなっていた。
俺が自分の世界に入っているうちに。

「聖は?」

俺はキョロキョロとあたりを見回した。
黒影もいない。

「明日から学校だし、そろそろ昼だから帰ったよ。私たちも帰る?」

翔子が首をかしげた。
あぁ、もうそんな時間か。
てゆーか聖よ、俺にも何か一言いっていけよ…。
これだから自己中は…。

「そうだな。腹も減ったし帰るか」

翔子は元気よく頷いた。そして俺たちは神社を後にした。
それを一匹のトラ猫が見ていたことに俺たちは気づかなかった。



  BACK|モドル|>>NEXT