1.前奏曲


赤き戦慄のもとにある世界。
殺戮と破壊を繰り返す、この体が血に染まるまで…。


ボクには、変な耳がある。いわゆる猫の耳ってやつ。
ボクには、尻尾が2本ある。
足だってカンガルーみたいに大きく、チーターのように早い足があるが、普通のヒトとは形が違う。
指も、恐竜みたいに鋭い。
ボクは、歳を取らないし、トカゲのような再生能力がある。
目も鼻も普通じゃない。牙だってある。


「おーい! マヤー!」

ボクは、旅をしている。
前は戦争とかにかりだされ、たくさんのヒトを切り裂いてきた。

「何? ヤマト」

ヤマトとは半年前に会った。
それから、一緒に旅をしている。
外見が子供のボクにとっては、1人旅は何かと不便だろうっていうのがきっかけだった。
ヤマトは、ボクの正体の事は知っている。
ヒトの手によって作り出された兵器「MAYA」って事を。
ヒトは、ボクの事を生物とは思ってはいない。
ただの作り物、兵器としか思っていない。

「そろそろ出発するぞ。早くしないと、軍人たちがお前の事探しにくるぞ!」

ヤマトは、ボクが軍から追われている事を知っている。
でも、もうすぐタイムリミット。
約束の1年がたとうとしてる。
ヤマトはその事を知らない。

「さ! 準備は終わったよ! 行こう、ヤマト!」

ボクがそう言うと、ヤマトはいつも笑う。
でも、ヤマトは知らない。
もうすぐ、この世界が血に染まる事を…。
そして、またボクはたくさんの罪の無いヒトたちを切り裂く。

「マヤ? どうした? 変な顔して」

ボクは、その言葉を聞いて苦笑する。
ヤマトもそれを見て笑う。

「今度は何処に行きたい?」

ヤマトがボクに聞いた。
ボクは、少し考えるがもう時間がない。

「セントパークに行こう! 買い物したい」

セントパークは、此処から電車に乗れば1日で着く。
ボクの生まれた場所だ。

「OK! たまには都会もいいかもな」

ヤマトは何も聞かない。
ボクがセントパークにいた事は知っている。
でも、ヤマトは何も聞かない。
ヤマトは、聞いても無駄って事がわかってるんだろう。ヤマトはいいヒトだ。
でも、ボクはこれから起ころうとしている殺戮を止める事は出来ない。
ボクは、生きるために戦わなきゃいけないから…。
ボクは、駅が近づくたびに足取りが重くなっていった。でも、電車に乗ってしまえばそれもおしまい。
電車が、かってにボクをセントパークへと連れて行ってくれる。



ボクは、いつのまにか眠っていた。
夕方頃に駅に着いたはずなのに、日付が変わり太陽が眩しく輝いていた。
窓の外には、なつかしい景色。
ボクは、ヤマトの方を見た。
まだ眠っていた。

「……ごめんね。死なないでね、ヤマト……」

ボクは、小さな声で言った。
ヤマトは唯一ボクを生物として扱ってくれた。
ボクは、首から下げている懐中時計を見た。

「7時3分…」

時間だ。
ついに、タイムリミットが来てしまった。
ボクは、行かなければならない。ボクは、次の駅で降りた。
ヤマトは…まだ眠っていたみたいだ。
ボクは野を駆けた。
約束の場所、軍の本部に行くと何人かのヒトがボクを迎えてくれた。

「来たか、マヤ」

ボクは、そのヒトを見上げた。

「お久しぶりです。博士」

ボクを作ってくれたミコト博士は、随分と歳をとったように見えた。
ボクは、空を見上げた。
これから何人のヒトが死ぬのだろうか?
これから何人のヒトを切り裂くのだろうか?
その…答えはまだわからない。
生きるために戦わなきゃならない。
戦うために生きなきゃならない。
ミンナは知らない。
この世界が血で染まる事を…。



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