僕らの不思議な夏休み
何か大きな音がして、目の前が真っ暗になった。
待ちに待った夏休み! な、はずなのに。僕は大変なことをやらかしてしまった。なんとまぁ、学校に通知表を忘れてきてしまったんだ!
なんということだ。学校において置いたら誰かに見られちゃうかもしれないし。見られてもいいほど成績だって良くない。
何より見せないとお母さんに怒られるから、一昨日から遊びに来ている従兄弟の宗ちゃんに頼んで一緒に来てもらうことにした。
だって、夜の学校なんて怖いしね。その点、宗ちゃんは小柄だけど頼りになるんだ。
お兄ちゃんも一緒に来るように頼んでくれたみたいだし。
「学校かー。小学校なんて卒業して以来だよな」
学校に行く途中、お兄ちゃんがそうぼやく。
大丈夫。お兄ちゃん、僕の頼みは聞いてくれないけど、宗ちゃんの頼みは聞いてくれるからちゃんとついて来てくれるはず。
年上の人がいた方が心強いし。
「中学校は自転車で行けるけど、小学校は自転車ダメだったなぁ」
お兄ちゃんはまるで昔を懐かしんでいるみたい。そんなお兄ちゃんに宗ちゃんが苦笑した。
「でも、何か夜の学校で怖いよね」
宗ちゃんがまるで、僕の言いたいことがわかったのか先にそう言った。
そういえば、宗ちゃん。去年、自分の通う学校に忍び込んだことがあるって言っていたな。
「夜の学校かー。まー、確かに怖いっていうよりは、何か起こりそうでワクワクするけど。今はそんな気分じゃないな。
通知表早く取りにいって戻ろうぜ」
お兄ちゃんが溜息をついた。めずらしいな。いつも元気だし、こんな状況大好きなお兄ちゃんなのに。
あ、もしかして成績が悪くてお母さんに怒られたんだな。絶対そうだ。でも、確かに夜の学校で何か起こりそう。
何か起こりそう。そう思ってたけど、学校はまだ電気がついていた。確か、あそこは職員室だよな。
「うへー、先生たちまだ残ってるのかよ。最近の先生は忙しいって本当だったんだなぁ」
教師にはなりたくないなと呟くお兄ちゃん。大丈夫、お兄ちゃん。教師には向いてないから。
それに、お兄ちゃん何かに誰も教わりたくない。
「取りあえず、職員室に行った方がいいのかな?」
「そうだな。俺、言って来るからここで待ってな」
お兄ちゃんは宗ちゃんと話し、職員玄関から中に入り職員室に向かった。僕たちは職員玄関の外で立ちすくんでいた。
「中に入るのに許可がいるの?」
ふと疑問に思い、宗ちゃんに尋ねた。
「そりゃー、完全下校過ぎてるから。危ないし」
なるほど。確かにそうだ。宗ちゃんの言うとおりだね。
そうこうしているうちにお兄ちゃんが出てきて、校舎の中から手で大きな丸を作った。入って良いってことだね。
僕たちは靴を脱ぎ、校舎の中へと入った。
「教室は二階だったな。あれ、おかしいな。電気つかないぞ?」
階段脇にある電気のスイッチをお兄ちゃんが入れた。でも、電気はつかなかった。電気、切れてるのかな。
夜なんかこないからわからないけど。お兄ちゃんが何度もカチカチやってもつかないってことは切れてるんだろうな。
まさか、こんな真っ暗の中進むとは思わなかった。懐中電灯でもあれば良かったな。
あぁ。でも、こんな真っ暗の中、通知表をとりに行かなきゃならないなんて怖いな。
「まぁ、いいや。先に行こう」
お兄ちゃんは怖くないのかな。普通に真っ暗の中を進んでいく。
あ、お兄ちゃん。蒸し暑いのか少し汗ばんでるな。僕も中学生になったら何か変わるのかな。
二階についた時、僕は奇妙な感覚に襲われた。何だかいつもの学校じゃない感じ。
はっきりとはわからないけど、何かが違うんだ。毎日通っている僕ならわかる。
「何か、あっちの方から音がする」
宗ちゃんが暗い廊下を指差した。確かにあっちから、何かコツコツコツっていう音か聞こえてくる。嫌だな、教室あっちなのに。
「よし。行って見よう。泥棒かも」
「あ、待って!」
お兄ちゃんが一目散に走り出し、暗い廊下に消えた。
「お兄ちゃーん」
僕と宗ちゃんでお兄ちゃんの後を追う。どうして、お兄ちゃんってこんなに自分勝手なんだ。前からだけど。
「ちょっと待って! 誰か居るよ!」
走っていると、宗ちゃんがそう言って僕を止めた。誰かってお兄ちゃんじゃないのかな。
いっそのことお兄ちゃん何かほっといて通知表を取りに行ってしまおうか。
「宗ちゃん。お兄ちゃんじゃないの?」
はっきり言って僕はもう帰りたい。見たいテレビだってあるし。あぁ、通知表を忘れなければなぁ。
「違うよ。誰なの?」
宗ちゃんが暗い廊下を見据えていると、深緑色の髪をした子がぬっと現れた。
髪がちょっと長く、何か男の子か女の子かよくわからないけど。顔も可愛い感じで。
「あ……」
でも、知らない子。だけど、宗ちゃんはその子を見て声を漏らした。
「君、何年何組の子? 見た感じ僕らと同い年っぽいけど。バカでアホのお兄ちゃん見なかった?」
お兄ちゃんについてはそれしか説明できない。それ以外に言いようがない。
「バカでアホな人は知らないけど。君、また邪魔しに来たの?」
その子は宗ちゃんのことをジロリと睨んだ。宗ちゃん、やっぱりこの子と知り合いなのかな?
僕は宗ちゃんを見た。宗ちゃんも僕に気づいた。
「去年学校に忍び込んだときに会ったんだ」
宗ちゃん、少し緊張しているみたい。
「まぁ、いいや。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど、いいよね?」
そう朗らかに笑うあの子。なんだか、その笑顔が少し怖いと感じた。この子は普通じゃないって。
「嫌だよ。僕は通知表を取り来ただけだ」
こんな所、一刻も早く抜け出したい。あんまり遅いとお母さんにだって怒られる。
もう、このさいお兄ちゃんはどうでもいいよ。どうせ、ケータイ持ってるし。お腹がすけば帰ってくるでしょ。
「なら、ゲームをしよう。手伝ってくれたなら、そのバカでアホな人の居場所を教えてあげるよ。
何となくどこにいるかとは検討がつくし。それに、暫くは僕と一緒にいた方がいいと思うよ?」
ヒャッ、ヒャと笑うその子。変な笑い声だな。でも、何か凄く余裕そう。
宗ちゃんと僕は顔を見合わせる。もし、ここでお兄ちゃんを置いて帰ったら後で殴られるのは目に見えている。
その後は暫くこれをネタにこき使われるんだろうな。これは長年弟をやっていればわかる。弟の宿命だ。
「わかった。でも、先に通知表を取ってからだ」
宗ちゃんは不安そうにしてたけど、僕はOKを出した。
とにかく通知表だ。僕と宗ちゃんは教室に入り、宗ちゃんに僕の机を教えた。
そしたら、宗ちゃんが僕の通知表を机の中から出し、持ってきた鞄の中に入れた。
何か悪いな。僕は手ぶらなのに宗ちゃんに持たせちゃって。
「ねぇ、君は何なの? 去年もそうだったけど学校で何してるの?」
宗ちゃんが教室からで、廊下にいるあの子に問う。僕もあの子を見る。
「僕? 僕はよつば。何をしているかは、ある人からの依頼で都市伝説を調べたりとか、偽者を探したりとか。
見つかりたくないから夜に来たんだけど、まさかねぇ」
よつばくんはチラリと僕のことを見た。
「えーと。そっちの子がこの学校の子だよね? この学校の七不思議って知ってる?」
急に話し掛けられてちょっとびっくりした。七不思議なら、何個か知ってるけど。
大抵、三年くらいのときに話題になり、嫌でも知っちゃうんだ。
「いくつかなら。十三階段とか。体育館のロープとか。じっとみる影とか。あと、何かトイレのも」
僕はこの手の話にはそんなに詳しくない。怖いから。だって、七つ全部知ると何かが起こるとか噂されてたし。
「何だ。四つか。まぁ、君はこうゆうのに興味なさそうだもんね。とにかく僕についてきて。
ったく、この時期は学校が多くて嫌になっちゃうね」
よつばくんはそう言って、三階へと向かった。僕たちも後を追った。
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