僕らの不思議な夏休み
よつばくんと会ってから、何だか変な感じはするけど、怖くはなくなった。よつばくん、本当に何者なんだろう。てか、人間なのかな。
「ここがその十三階段だね。あってる?」
僕たちは三階の一番端の階段の前にいた。この四階へと続く階段は、夜になると十三段になるといわれているんだ。
確か、この階段に挑戦した子がいて足を骨折したっていう嫌な噂がある。それ以来僕はここを避けてきた。
「うん。ここだよ」
さっきのは撤回する。よつばくんがいようが怖いものは怖い。暗いってだけで怖い。
「そうか。どっちか試してみなよ」
「「えっ!?」」
僕と宗ちゃんはよつばくんの台詞に思わず声をあげた。しかも同時に。やってみなよって何!? だって、この階段は噂の十三階段だよ!
「やってみなよって。もし、本当に十三段あったら消えちゃったり、怪我しちゃったりするんだよ? それを試してみろだって?」
そんなの嫌に決まってる。誰だって嫌に決まってる。
「そうか。じゃあ、君は? 宗一郎だっけ?」
よつばくんは宗ちゃんの方を見た。宗ちゃんは息をのんだ。
「大丈夫だよ、何も起こらないから」
宗ちゃんは僕をみた。宗ちゃん、どうするんだろう。僕は怖いからやりたくないし、てかよつばくんがやればいいんじゃないかな。
「わかった。行って見る」
宗ちゃん! 宗ちゃんは怖くないの!? 僕は少し驚いた。だって、きっと断ると思ってたから。
宗ちゃんは、ゆっくりと階段を上りはじめた。
「何段あるカウントしてくれよー」
階段下で僕と一緒に見ているよつばくんが声をあげた。宗ちゃんは振り向いて、コクンと頷いた。
「……四……五……六……」
どうか、どうか。宗ちゃんがきえちゃったり、怪我したりしませんように! どうか!
「七…、八、九……十……」
あぁ、何か凄く嫌な予感。よつばくんは何も起こらないと言っていたけど、本当なのだろうか。
「十一、十二……」
十二段目で宗ちゃんの足とカウントが止まった。宗ちゃんは、もう一段ある階段を見て息をのんだ。
やっぱり、ここ十三段なんだ! どうしよう! このままじゃ、宗ちゃんが。どうしたらいい!?
「ここ、十三段あるよ! 僕はどうすればいい!?」
宗ちゃんが慌てていると、よつばくんが一段飛ばしで階段を上がっていった。僕もそれについていく。
「ふむ。どうやらこの階段最初っから、十三段みたいだな。それにごらんよ。さっきからあの天井のシミ、気になってたんだけど。
あれは雨漏りのあとだ。話で聞いた骨折した生徒は雨漏りで、床に出来た水溜りを踏んで、滑って階段から転げ落ちたんだろう」
よつばくんは十三段目にあがり、天井を指し、床を指差した。
そういえば、四階の上は屋上で、三階が雨漏りしてるっていうのも聞いたことあるな。
何だ。はじめから十三段なのか。そういえば、僕の家の階段も十三段な様な気がする。僕はほっと胸を撫で下ろした。
「あ、そうそう。体育館の首吊りロープっていうのはあれ。縄跳びだったよ。
ステージの下に物置みたいな地下室があって、確かに首吊りみたいな感じにも見えなくないけど。
中に入ったら天井の柱に縄跳びがいっぱいかかってたよ。ちょうど、その一本が首吊りロープみたいに見えてただけだ。
大体暗くなるとロープが現れるってのも変だよな。
あそこ電気ないっぽいし、暗くて変な縄があるってことで首吊りロープに変化したんだろうな」
よつばくんはそう言い、僕たちと次々に七不思議スポットと回っていった。
どこの七不思議もちゃんとした理由があって、全然怖くなかった。本当に心霊って感じじゃなくて、僕たちの勘違いみたいな。
トイレのだって、ペンキが剥がれてそうゆうふうに見えるから一年生が怖がるってものだったし。
「ねぇ。さっきから誰かが僕たちの後をついてきてない?」
教室ら辺に戻ったとき、宗ちゃんが奇妙なことを口にした。
「先生か、お兄ちゃんじゃないの?」
僕はすっかり怖くなくなっていた。宗ちゃんは首を横に振った。
「何だ。気づいてたの? 流石だね。確か、君。去年も気づいたよね? 宗一郎、霊感あるんじゃないの?」
よつばくんは楽しそうにひゃっひゃと笑う。僕はよくわからないけど、霊感ってことはやっぱり、そうゆうのはいるの!?
「階段の前に移動した時からずっと誰かがついてきてる。距離をとって、僕たちに気づかれないように。一体あれは何なの?」
宗ちゃんは緊張しているようにみえた。あれって何!? 僕は余計怖くなった。
「あれは……まぁ、ひらたく言えば幽霊だね。君がどっちのことを言ってるのかはわからないけど。
あれは、花子じゃないのに自分を花子だと思ってる幽霊。多分、学校でいじめられて死んだ自縛霊か何かだろろうね。
もう少し近づけば二人にも見えるようになるよ」
ニヤリと笑うよくばくん。やっぱり、そうゆうの居るのか。しかも、僕にも見えるの!? いままで見えたこととかないのに。
何だか、また怖くなってきた。
「もしかして、お兄ちゃんは……」
「十中八九あれの仕業だろうね。君の兄さんには見えてないと思うけど。さて、君たち二人はここにいなよ。僕は仕事をしてくるから」
よつばくんはそう言い、歩いていった。あれがいる方に。何だか僕も少し感じる。泣いている感じがする。
僕たちはよつばくんの後を追おうとは思わなかった。何だか怖くて、悲しくて。
だけど、暫くするとよつばくんが女の子と一緒に戻ってきた。おかっぱ頭で、赤いツリスカートをはいた。
その子があれかなと思ったけど、違うね。あれはもっと怖くて悲しい感じだった。
でも、どうして突然僕にも見えるように、わかるようになったんだろう。不思議だなぁ。
「よつばくん、さっきのあれはどうなったの? それに、その子は……」
宗ちゃんがよつばくんに問う。よつばくんはニヤリと笑った。
「あれはいなくなったよ。自分を思い出して。例の七不思議にはあの子も少なからず関与してるみたいだよ。
じっとみる影とかはあの子の仕業だったらしい。
ま、大抵七不思議なんて偽者が作ったものか、こじ付け、もしくは人間が思い込んだだけだよね。
本物が作ったなら、もっと怖いしね。あ、この子は花子。今回の依頼者。
七不思議の解明と、あれを追い出してほしいって依頼をうけたんだ」
よつばくんは、そう言って花子ちゃんを僕に紹介した。
あれ? 花子って、もしかしてトイレの? え、話の流れ的に本物のトイレの花子さん?
「桜木、久しぶりだね。あんた、一体どうしたの? それにしても、あんた。また通知表忘れたの?
あんた、一年の時も忘れて取りに来たよね。それで、あたしが付き合ってあげたの覚えてない?
あんたはあたしのこと、上級生だと思ってたみたいだけどね」
「え!?」
そんなことあったっけ? 何だか少し驚いた。
確かに、僕は一年の時通知表を忘れたことがあったような気がするけど、覚えてない。
にしても、これがあの花子さんか。何か、イメージと全然違うな。
「あ、そうそう。桜木兄なら教室で眠りこけてるよ。階段の下におっこってたから、教室に運んでおいた」
「本当?」
花子ちゃんの話を聞き、僕は急いで教室へと向かう。さっきはいなかったけど、確かにそこには僕の机で寝てるお兄ちゃん。
「ほら、花子。仕事はやったんだし、報酬をおくれ」
廊下でよつばくんの声が聞こえ、僕は廊下に出る。お兄ちゃん寝起き悪いから、嫌なんだよな。起こすの。
「わかってるよ、ほら」
花子ちゃんはスカートのポケットから赤いビーダマを取り出し、よつばくんに渡した。
「何それ? ビーダマ?」
宗ちゃんがよつばくんの手に渡ったビーダマを不思議そうに見ている。
何かビーダマの中で蠢いている気がするけど、気のせいかな。何かちょっと気味の悪いビーダマだ。
「これは、人間の恐怖を固めたもの」
今度はよつばくんがビーダマをポケットに仕舞う。よつばくんって本当に何者なんだろう。
「ねぇ、君は本当に何者なの?」
宗ちゃんがそう問い、よつばくんに一歩近づく。よつばくんはニヤリと笑った。
「愚問だね。世の中には知らない方がいいことがたくさんあるんだよ」
よつばくんは、ヒャッ、ヒャと笑いその笑い声を最後に、廊下の電気がいっぺんについき、よつばくんも花子ちゃんもいなくなっていた。
「ふわー。あれ、俺どうしてこんなとこで寝てるんだ?」
その直後、お兄ちゃんが目を覚ました。お兄ちゃんは学校に来てそれからを覚えてなかった。
こうして、僕らの不思議な夏休みは始まった。
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