僕らの不思議な夏休み


夏休みが始まってから、何日がたった。うちはお兄ちゃんが部活で、お父さんも仕事で忙しいらしく、どこにも行かないみたい。
でも、何だろう。家の中の雰囲気が暗い。ちょっとそれは気になったけど、僕と宗ちゃんはちゃんと毎日ラジオ体操に通った。
と、いうかラジオ体操に行くしかなかった。宿題はまだやりたくないしね。でも、ラジオ体操だってきっと徐々に人が減っていくんだ。
旅行とかで。今年は何人残るのかな。

「おーい」

宗ちゃんと歩いていると、松田くんの声が聞こえてきた。松田くんも暇なんだな。

「おはよう、松田くん」
「おはよう」
「おう。おはよう」

僕たちは松田くんに挨拶をする。そうか。宗ちゃんのことは、宗ちゃんがこっちに来たときに紹介したんだった。

「そんなことより聞いてくれよ。うちの兄ちゃんがとんでもない写真をとりやがったんだ。 俺が思うにあれは心霊写真だと思うね。後でうち来いよ。見せてやるから」

松田くんは誰もいないけど、誰にも聞こえないように小声で言った。

「心霊写真って、テレビとかでよく見るあれ?」

宗ちゃんが首をかしげる。僕は怖いから心霊番組とかは見ないけど、心霊写真ぐらいはわかるよ。

「そうそう。あれだ。とにかくすげーから。俺も実物ははじめて見たけどな」

それから学校に行くまでの間、松田くんはずっと心霊写真の話をしていた。まだ朝だっていうのに。
どうでもいいけど、僕も自転車で学校に行きたいな。どうして、駅側に住んでる子は自転車で行っちゃいけないんだろう。
そもそも、駅側と山側で差が激しすぎるんだよな。ちょっと行けば田舎だもんな。田舎から通ってきてる子は自転車いいだなんて。
宗ちゃんが驚いていたっけかな。

「お。柳沢も梅宮もいるじゃねーか。いいよなー、あいつら山側だから自転車でこれて」

学校に着き、松田くんがクラスメイトの柳沢くんと梅宮くんを見つけ、かけよった。
そのまま、戻ってこなくて何か話してたけど、どうせ心霊写真の話だろう。松田くんは何でも自慢したがるから。
ラジオ体操してる間もずっと話してて、先生に怒られてたな。


ラジオ体操が終わると松田くんは僕たちの方に来た。

「柳沢と梅宮は家の手伝いがあるからこれないってさー」

つまんなそうに言う松田くん。やっぱり心霊写真の話をしてたのか。

「まぁいいや。適当な時間になったらうち来いよ。でも、あんま遅くならないようにな?」

松田くん。そう言って、さっさと帰っちゃった。せっかちというか、自己中というか。これだから末っ子は。あ、僕も末っ子か。
まぁ、でも僕はお兄ちゃんの奴隷のようなものだから。松田くんのお兄ちゃんは優しいからいいよな。羨ましい。


とりあえず僕たちは家に帰った。何かおかしいな。全然お腹が減らないや。朝ごはんは食べなくていいや。
何かやっぱり家の中の空気が重いから、宗ちゃんが食べ終わるまで自分の部屋にいよう。
宗ちゃんが朝ごはん食べて、少しゆっくりしてたけどお母さんに何も言われなかった。
去年だったら宿題しなさいとか、宿題しないなら邪魔だからどこか遊びにいきなさいとか言ってたのに。
お母さん、僕らが長期休みに入ると毎日家にいるんだって嘆いてたもんな。
でも、今年はそれがなかった。何も言ってこなかった。まぁ、いいや。とりあえず松田くんの家に行こう。

「おう。入れ、入れ。誰もいないけどな」

松田くんはしゃれた一軒やに住んでいて、両親共に共働きだ。家具とかもちょっと高級そうで、絶対お金持ちだと思う。
そういえば前に、海外のお土産を貰ったことがある。

「例の心霊写真がこれだ」

松田くんの部屋に案内され、僕たちはさっそく心霊写真を見せられた。うーん。僕はいまいちよくわからないな。

「あ!」
「お、宗一郎。わかったか?」

宗ちゃんが声をあげ、松田くんの問いに頷く。僕はまだよくわからないな。

「これでしょ?」

宗ちゃんは、僕にもわかるように写真の右上の木を指差した。生い茂った木にしかみえないけど。

「そう。そこ! 人の顔みたいのがあるだろ?」

松田くんはビシっと木を指差した。ちょうど葉っぱのとこで。
あ! 確かそうだ。人の顔みたいのがある。何か大きな口をあけて叫んでいるようにもみえる。
しかも一つじゃなくて、いくつか顔があるみたいだけど。嫌だな、気づかなきゃよかった。

「これ、顔だよな? しかも、昨日電話かかってきたんだけどさ。この人!  写真の右側の人が、バイクとぶつかって怪我したんだって! で、今日の部活休むって兄ちゃんに連絡来たんだ。 絶対ただごとじゃないよな。こうゆうのって、どっかの番組に送ればいいのか?」

松田くん、怖がってるのか楽しんでるのかわからない。

「うーん。でも、本当にヤバイやつなら神社とかでお祓いしてもらうのがいいんじゃないかな」

宗ちゃんの何気ない一言。まさか、あそこに行くのかと思い、僕と松田くんは宗ちゃんを見た。
宗ちゃんは知らないんだ。あそこに行くのがどんなに大変か。連れて行ったことないしね。

「俺は嫌だね。あんな大変なとこ。絶対に嫌だ」

さすが松田くんだよ。言い切った。こうゆうとこちょっと羨ましい。
僕だって行きたくないけど、宗ちゃん一人にするわけにはいかないしな。

「わかったよ。僕が行くよ。場所は人に聞くから大丈夫だよ」

宗ちゃんは苦笑する。宗ちゃんが行くなら僕も行かないとな。場所を教えてあげないと。
松田くんはガッツポーズをし、宗ちゃんに写真を渡した。
何かあったら連絡くれってことだけど、宗ちゃんはケータイ持ってるし、大丈夫でしょ。松田くんの家の番号を登録してっと。
いいなー、ケータイ。僕も欲しいなー。都会の子はさすがだよね。でも、きっと僕はダメに決まってるんだ。


例の神社までは結構遠い。まず山の方にいって、田んぼの脇を通って……。多分、柳沢くんの家からの方が近いんじゃないかな。
またに行くみたいだし。僕たち駅側の子は遠いし、大変だしてあんまり行かないけどね。

「宗ちゃん、この山だよ。この鳥居をくぐって、山を登るんだ。そしたらまた鳥居があるから、そこと抜けて階段を上る。 最後の鳥居を抜ければ本殿が見えてくるよ」

ついた。やっぱり結構時間かかっちゃったな。宗ちゃんはほえーって感じで、鳥居の先を見ている。

「これは……嫌がってた理由がわかったよ。あれ? 上から誰か降りてくる」
「え?」

まさか、変な人とかじゃないよね。そう思い、僕も鳥居の先を見る。ん? どこかで見たことあるような。あの深緑の髪は……。

「「よつばくん?」」

宗ちゃんも誰かわかったみたい。そうなんだ。この前、夜の学校で会ったよつばくんが上から降りてきたんだ。
何でこんなところにいるんだろう。まさか、ここに住んでるとか……。まさかね。それか、神社マニアとか?

「あれ? 桜木に宗一郎。珍しいとこで会うね。こんなところでどうしたのさ?」
「よつばくんこそ、どうしたの?」
「なんだ、桜木。気になるのか? ちょっと上に用があったんだ。それだけだよ」

よつばくんは肝心なことを言わないで、ヒャッ、ヒャと笑った。もしかしたら、よつばくんならあの写真、わかるんじゃないかな。
だって、よつばくんはつまり……花子ちゃんのお友達だし。まぁ、いいや。ダメでもともと。聞いて見よう!

「よつばくん。ちょっと見て欲しい写真があるんだ。友達は心霊写真だって言うんだけど……」

僕は宗ちゃんを見た。宗ちゃんは僕の考えていることに気づいたらしく、ポケットから写真を取り出し、よつばくんに見せた。
よつばくんは、少しの間真剣に見てたけど、バカにしたように鼻で笑った。

「これ、心霊写真なんかじゃないよ。どこをどうみたら、心霊写真なんだか」
「でも、よつばくん。ここ、ここの所。人の顔があるように見えない?」

宗ちゃんが写真に写りこんだ顔を指差した。

「これは木の影。嫌だねー、人間は。どうして、三つの点が集まると顔に見えちゃうんだろうね。 大体、心霊写真と呼ばれる物の殆どは撮影するときの技術的ミス。デジカメが主流になってからは殆ど出回らなくなったんだから」

よつばくんは、またヒャッ、ヒャと笑った。そういえば、聞いたことあるな。心霊写真は作れるって。

「カメラとか持ってない?」
「ケータイならあるよ」

宗ちゃんが、ケータイをカメラモードにしてよつばくんに渡した。
よつばくんはケータイを受け取ると、急に僕たちに向け、シャッターを押した。

「これが本当の心霊写真」

そう言って見せてくれたケータイの画像には、僕と宗ちゃん。
他は風景以外なにも写っていない。変なものも誰かの顔も。これのどこが心霊写真なんだか。
僕がそう思っていると、宗ちゃんはなんだか暗い顔をしていた。

「ねぇ、君は本当に何者なの?」

よつばくんに向き合い、この間と同じ問いをする宗ちゃん。よつばくんは、ケータイを返し、ニヤリと笑った。

「そんなに知りたいなら、ゲームをしようよ。内容は僕の正体を暴くゲーム。 生きている者、死んでいる者、人ではない者。色々な者に聞いて情報を集め、僕の正体を暴く 。期限は夏休み中。もし暴けたら、戻り方を教えてあげる」

楽しそうに笑うよつばくん。ちょっと言ってることにわからないことがあるけど、何だか面白そう。
宿題はまだやりたくないし、でも戻り方ってどこへの戻り方だろう?

「やる! 絶対暴いてみせる!」

宗ちゃんが力をこめて、そう言った。宗ちゃん、僕と違ってやる気マンマンだな。そんなによつばくんの正体を知りたいのだろうか。

「君ならそう言ってくれると思ってたよ。君たちならいい線行くと思うよ。そうだな。上の神社に行ってごらん。僕の古い知り合いがいるから」

よつばくんはそう言い残し、ヒャッ、ヒャと笑い、どこかへ行ってしまった。変な子だな、本当に。



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