走りつかれた旅人の話


逃げるんだ。逃げなきゃ、ダメなんだ。
でも、僕はいったい何から逃げているんだ?



ある所に旅人がおりました。
その旅人は、何故かいつも走っていて、忙しそうで声もかけられません。
ご飯を食べたと思ったら、すぐに走りだし、起きたと思ったら、また走り出す。
どうやら、1日中、夜も寝ずに走っていることがあるそうです。
私は、そんな旅人に声をかけたことがあります。
「やあ、そんなに急いでどこにいくんだい?」

旅人は私を後ろから追いぬかし、走り去ろうとしていましたが、私が声をかけたことによって、私の方を向きました。
ですが、足は走ったままです。

「別に急いでないよ! 急いでないけど、止められないんだ!」
「そんなに走っていたら、いつか動けなくなってしまうよ?」
「でも、走らなきゃいけないんだ!」

旅人はそう言って、走り去っていった。物凄いスピードで。



旅人はそのあともずっと走っていた。
何度か旅人を見たことがあるが、何かに追われるように走っていた。
辛そうな顔をし、息もきれているというのに、旅人は走り続けていた。

「そんなに走っていたら倒れてしまうよ」

私は旅人を見かけるたびにそう声をかけた。
私も旅人だから、旅人とはよく出くわすのだ。

「走らなきゃいけないんだ!」

旅人の返事はいつもそれだ。走らなきゃいけない。旅人は一体何から逃げているのだろうか。



暫くたったあと、旅人の噂を聞いた。
走り続けていた旅人は、ついに走りつかれてしまったと。そして、道で倒れていたと。
そして、目覚めたときには旅人は走るのをやめ、旅に出るのをやめた。
そのさいにこんなことを言ってたらしい。

「逃げ切れた。僕は逃げ切ることができた。だから、もう走らない」

と。



走りつかれた旅人は、旅の終着地点についたようだ。
私もそろそろ旅を終えて、家へ帰るとしよう。物語はもうすぐ終わる。
ブランシェとの旅もあとわずか。



BACK|モドル|>>NEXT