玄関の前の青年の話


海の見える街。そこの浜辺に雑種の白い犬をつれた旅人風の1人の男がいた。そう、彼らがあのオーリーとブランシェである。オーリーたちは旅を繰り返し、この海の見える街に来たのである。

「潮風が気持ちいね、ブランシェ」

オーリーは服に砂がつくのも気にせず、砂浜の腰をおろした。ブランシェはオーリーと2人だけなのが嬉しいのか、尻尾をきれそうなくらいふり、甘えていた。
だが、はやりオーリーの行くとこには子供ありといった感じで、どこからか子供たちが現れた。

「オーリーだ! 話作りのオーリーだ!!」

子供たちはオーリーを指差し、駆け寄ってきた。
オーリーは世界全国歩いている。そして、オーリーの作る話は、とても独特で何冊か本になっているのだ。その本には著者の写真をのせるところがあり、面白半分でブランシェの写真をのせてしまったら変わり者としても有名になってしまったのだ。もちろん、ブランシェも。

「やぁ、はじめましてだね」

オーリーは座ったままで、子供たちに挨拶をした。

「何かお話してっ!」

子供たちの1人が元気よくそう言った。
空は青々としており、雲1つないいい天気だ。空気も澄んでいる。そんな中、ブランシェはつまらなさそうにその場で伏せをした。

「そうだね。じゃあ、玄関の前の青年の話をしてあげよう」

オーリーは笑顔でそういい、子供たちも嬉しそうに笑いオーリーのまわりに集まった。





***





森の中に大きな洋館があった。そこには、歳老いた女と、若い青年が暮らしていた。だが、青年は何かを待ち続けるかのように、ずっと玄関の前に座っていた。朝も夜も、雨の日も雪の日も、ずっと青年はそこにいた。
そのためなのか、解らないが歳老いた女は一歩も外に出なかった。そして、たまに1人でぶつぶつと何かを言ったり叫んだりしていた。
2人は一週間前くらいから会話をするどころか、お互いの姿をみることもなくなっていた。それでも、2人は今いる場所から動こうとはしなかった。
そんな中、青年に一匹の小鳥が近付いた。その小鳥は青年の肩へとまった。

「どうしたんだい?」

青年は小鳥に話しかけた。もちろん、青年は小鳥に話しかけても答えが返ってこないことがわかっていた。例え答えが解っていても、言葉が違うというのもわかっていた。

「もうすぐだよ、もうすぐだ」

青年は空に向かって独り言のように呟いた。


ある日のとこ、森の洋館が炎上した。火元は森の洋館のキッチンだった。
青年はため息をついた。が、青年は玄関の前から動こうとしなかった。ただ、森の方をまっすぐに見据えていた。すると、その先から1人の若い女性がやってきた。
女性は男性に近寄った。

「無理だったのね」

女性は青年に言う。青年は悲しそうに頷いた。

「一週間前から酷くなってね」

青年は初めて玄関から離れ、青年と女性は寄り添うようにして燃える洋館を後にした。





***





子供たちは黙って話を聞いていた。子供たちは、話の内容がよくわからないのだ。

「この話は複雑だよね。まず、3人の関係性を考え、歳をとるということを考え、炎上した原因も考えなければならない。これがわかれば、青年が玄関にいた理由もわかるよ」

オーリーは、まだ歳をとるということに恐怖を感じていない子供たちにそう教えた。子供たちは首をかしげ、考えていたがやはりわからないようだ。

「もう少し大人になったらわかるよ」

オーリーは苦笑した。
そして、オーリーはいつものように子供たちと別れ、明日も話をするといった約束を交わした。

「ブランシェ、子供たちは純粋だね」

オーリーは、そう言いながら愛犬ブランシェの頭をなでた。



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