お告げを受けた娼婦の話


オーリーはあの海の見える町を旅立ち、森に囲まれた村に滞在していた。この村を囲む森はただの森ではなく、果樹園であり誰でも果物を取っていいことになっていた。
この村にはこの村独特の宗教が根付いていた。この果樹園はメシアが来て、植えただとかなんだとかそういったものらしい。
オーリーはリンゴの木からリンゴをとり、食べた。ブランシェも欲しがったが、さすがに犬だしと思い挙げるのを遠慮した。

「オーリー見つけた!!」

そこにいつものように子供たちがやってきた。相変わらずオーリーは子供たちに人気で、そのたびにブランシェが不機嫌になる。

「話を聞きにきたのかい?」

オーリーはそう微笑んだ。子供たちは頷き、近くになった切り株などに座った。





***





遥か、昔。まだ、人々が神を信じていたころの話。
天使たちはお告げを人間に知らせるたびに下界にやってくる。そのお告げを受けるのは、聖人か著名な宗教学者か……とにかく善人である。
だが、今回お告げを受けた女は驚いた。なぜ、自分なのかと。そして、何故今なのかと。
天使は光り輝き、とても美しかったが女の現実は美しいとは言えないものであった。女の隣には裸の男が寝ていて、女自身も裸であった。
天使は女に言った。

「娼婦の女よ。お前は子を身ごもる。女の子だ。その子にリンゴの木を植えさせよ」

天使はそれだけ言うと消えてしまったが、女はとにかく驚いた。なぜ、私なのかと。
娼婦とは自分の体を使い、金を儲ける世にいうアバズレで汚い女である。だが、天使はそんな女にお告げと告げた。



女は天使の言うとおり、女の子を身ごもった。父親は誰だかわからない。ちゃんと、避妊にも気を付けていた。なのに、女は天使の言うとおり妊娠した。
その女の子が生まれると、女はその女の子を可愛がった。いくら、この娼婦の女といえど、自分の子は可愛いものだ。
女はその女の子がある程度大きくなると、天使の言うとおりある場所にリンゴの木を植えさせた。そのリンゴの木がある程度育つと、天使は女のもとにまたやってきた。

「もっと、他の木を植えなさい。実をつける木を」

女は娼婦をやめ、天使の言うとおり女の子と一緒に実のなる木を植えた。
女はその場所に女の子と一緒に移り住んだ。そうすると、木はどんどん大きくなり花が咲き、実をつけるようになった。
この実は毎年取れるようになった。
そして、何よりこの実はとても役立った。それから、多くの人がここに移り住み、実のなる木を女と女の子と一緒に植えた。
こうして、森に囲まれた村が出来た。天使はもう現れなかった。





***





子供たちは黙って聞いていた。だが、すぐにざわめき始めた。

「この村の始まりに似ているけど、最初に木を受けたのはメシアだよ?」

子供たちは言った。まるで、差別するかのように。オーリーはそんな子供たちに驚いた。

「このお告げと受けた娼婦の話の根底はもっと深いところにある。君たちならわかってくれると思ったんだけどな」

オーリーはそう言い、苦笑した。



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