不器用なピエロの話


あるところに不器用なピエロがいました。ピエロというものは人を楽しませるもの。
だが、そのピエロは不器用で人を楽しませることができません。

「やーい、やーい。お前なんかピエロじゃねーやーい」

子供たちはピエロにそう言います。そして、子供たちはピエロの周りから去って行きました。ピエロはとても悲しくなりました。
しかし、ピエロは雨の日も雪の日もそこで、人を笑わそうと楽しませようとしていました。
でも、誰も不器用なピエロを見ようとはしません。それでも、ピエロはそこにいました。

「きっと、いつの日か誰かが笑ってくれる。楽しんでくれる」

そう思いながら……。



それから暫くして戦争が起こりました。人々は大切なものを失い、とても悲しみました。ピエロはそれでもそこにいました。
戦争がはじまると、食べ物がなくなりました。水もなくなりました。家もなくなりました。

「お母さーん、お母さーん」

この間のあの子はお母さんを呼んで泣いています。

「やぁやぁ、どうしたんだい? お腹がすいたのかい? ならこれをあげよう」

ピエロはその子に自分のパンをあげてしまいました。その子はそれを受け取り、食べてしまいました。そして、

「ありがとう、ピエロ」

そう言って笑ったのです。ピエロはうれしくなりました。自分のしたことで笑ってくれたことを。



ピエロはついに食べ物がなくなってしまいました。とても、やせ細ってしまいました。
それでもピエロはバカみたいな踊りを踊り、人を楽しませようとしました。
ある日、敵が攻めてきました。戦いが始まりました。ピエロも怪我をしました。

「ピエロっ……ピエロ……」

子供たちがやってきました。皆、怪我をしていました。ピエロは踊りを続け、いろいろなことをしました。

「ピエロは面白いね。ピエロは楽しいね」

子どもたちはピエロのすることを見て笑いました。しかし、同時に泣いていました。
そして、子供たちは楽しみ、笑い、同時に涙を流し……そしてそのまま動かなくなってしまったのです。
それからたくさんの人がピエロを見て笑いました。
そして、動かなくなりました。楽しみ、笑い、同時に泣き……動かなくなってしまったのです。そして、ついに誰もいなくなりました。



ある日、1人の白い犬をつれた旅人がやってきました。
ピエロは踊っていました。旅人はピエロに言いました。

「君はすごいピエロだね」

旅人は楽しそうに声をあげて笑いました。ピエロは嬉しくなり、ピエロも笑顔になりました。

「笑ってくれた。皆、笑ってくれた。こんな僕でもできるんだ」

ピエロは楽しそうに笑っていました。そして、同時に泣いていました。
そして、ピエロはこの言葉を最期に動かなくなってしまいました。この町にはもう誰もいません。
この町には誰もいなくなりましたが、たくさんの笑いと涙が残りました。





***





オーリーはあるお墓の前にいた。そこのお墓には名前が刻まれていなかった。

「やぁ、久しぶりだね。君の話を書いたんだ。気に入ってくれるかい?」

オーリーは手に持っていた花束を置き、そして声をあげて楽しそうに笑った。
となりにいるブランシェも笑っているかのようみえた。



笑いが彼のいるところに届くようにと。



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