ポストを覗く少女の話


今日も手紙はこない。
あるところに1人の少女がいた。
少女は毎日のようにポストをのぞいていた。

「どうしたんだい?」

そこに白い犬をつれた旅人の青年が通りかかった。
少女はポストから目をはなし、青年の方を見た。

「手紙を待ってるの。でも、今日もこないみたいなの」

少女は残念そうにそう言った。そして、こう続けた。

「私のお兄ちゃん、今遠いとこにいるの。手紙を書くっていってくれたんだけど、こないの。もう何年もまってるのによ?」

少女はそう言って、何もはいっていないポストをまたのぞいた。
そのポストには手紙どころか、何も本当に入っていないのだ。
先ほどのぞいてたときに手紙をとって取り残しがあるのかを見てるのかと思いきや、その少女の手には何もなかった。



少女は来る日も来る日もポストをのぞいた。
だが、そこにはいつもと同じで紙一枚入っていなかった。

「もう、ポストをのぞくのはおやめ」

少女は母親に毎日のように言われていた。
だが、少女はポストをのぞくのをやめなかった。
来る日も来る日もポストをのぞいた。
それでも、手紙は一向にこなかった。



「あ、旅人さん!!」

何ヶ月がたったころ、少女はポストをのぞきにいくと、あの時の白い犬をつれた青年を見つけた。
青年は少女に気づき、あのときのようにポストの近くにきた。

「今日もポストをのぞいているのかい?」

青年は少女にニコっと笑いかけた。少女も笑った。

「はい! 旅人さんはどこに行くんですか?」
「家に帰るところだよ」

少女はそのセリフを聞き、驚いた顔をした。
どうやら、旅人だから帰る家はないと思っていたようだ。
それから、しばらく青年は少女に自分の家族のことを話した。少女がしつこく質問してくるからだ。
話の途中で、誰も来ていないのに少女は何度もポストをのぞいていた。
もちろん、手紙どころか紙一枚もはいっていない。

「そういえば、君のお兄さんはどこにいるんだい?」

青年はふと思い、聞いてみた。だが、少女はわからないというように首をふった。

「あ! でも、お兄ちゃんはピエロをやっていて人を笑わすことが仕事なの。でも、お兄ちゃんすごく不器用だから……」

少女は楽しそうに懐かしそうに兄の話をしはじめた。
もちろん、その途中でなんどもポストをのぞいた。
不器用なピエロ……青年はそのピエロを知っている気がした。





***





ある日、少女に手紙がとどいた。
宛名もなく、住所もない手紙だ。
そこには、こう書いてあった。
“不器用なピエロは人を笑わすことができて、幸せだった”と。
少女はついに兄から手紙がきたのかと喜び、もうポストをのぞかなくなった。

それを、あのときの旅人の青年が見ていた。



BACK|モドル|>>NEXT