カノープス


「何だお前たち。帰らないのか?」

聞きなれた台詞。このくらいの時間になると誰もが言う台詞。僕たちはその台詞を無視した。

「何だ? 帰りたくないのか? だったら俺が面白い話してやるよ」

そう言って、オリオンはブランコの周りにある柵に腰掛け、魔法の話をしてくれた。
初めはバカらしいって思ってたけど、僕たちはいつの間にかオリオンの話に聞き入っていた。


当時の僕らは浅はかだった。全て大人のせいにすればいいと思っていた。
でも、違うんだ。大人には大人の世界があって、その世界は子供には理解不能で、 僕たちが嫌っていたものを持っていないとやっていけない。
子供を傷つけるのも、その世界のせいで、きっとその世界のルールを大人の都合って言うんだ。 でも、子供はそんなの理解出来ないから、その世界に巻き込まれ訳のわからないうちに傷を負う。

子供のうちはたくさん時間があって、どうにでもなるけど、大人は? 大人は子供と違って誰も守ってくれない。
誰も間違いを正してくれない。全部自分でやり、自分で考え、自分で動き、自分で守らなきゃいけない。
しかも、守るのは自分だけじゃない。だから、大人は取り返しのつかないことをすると、戻ってくるまでに時間がかかるんだ。
リゲルの両親も、オリオンの両親もそれに気づくのは遅かった。

やっぱり、今の僕たちには大人ってよくわからないけど、これだけはわかるよ。
オリオンの言っていた通り、大人って悲しくて、苦しくて、切ない生き物なんだって。
大人になるのはそういうことだって。子供のように、好き勝手出来ない。 大人の都合があるから。色々考えなきゃいけないし、守らなきゃいけない。
大人になるってことは、色々なことを知るのと同時に、色々なことを忘れていくんだ。



僕たちは夜になる前に、ペテルギウスたちと別れた。
父さんと母さんとは最近一緒にご飯を食べている。仕事で忙しいのに、僕たちのために時間を作ってくれているんだ。
それが、どんなに難しいことが今ならわかるよ。

「カノープス」

ご飯も終わり、部屋でゴロゴロしているとポラリスがやってきた。

「星が凄く綺麗だよ。流れ星が見えるかも」

ポラリスの言葉を聞き、僕とポラリスは一緒に窓の外を見た。
確かに綺麗な星空だ。お星様、お星様。どうかお願いです。もう一度僕たちをオリオンに逢わせて下さい。
僕は、そう星に想いを乗せた。どうか、この想いが彼に届きますようにと。



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