王の祈り
アーツ国は近かった。芸術の国と呼ばれ、四方を森で囲まれた国。そんなアーツ国にはたくさんの芸術家達がいる。
画家達が絵を描いている通りを抜け、四人は酒場に向かっていた。
「多分、酒場には俺の仲間がいると思うんだ」
酒場についた四人。中に入ると、たくさんのガラの悪そうな男達がいた。
この酒場はこのような者達の溜まり場となっているのだろう。
「おい。お前、ソナじゃないか?」
頭にバンダナを巻いた一人の若い男が、近づいてきた。四人は男のことを見た。
男は、ソナと同じ刺青を腕にして、ソナは笑顔になった。
「ミュラー! 久しぶり、ミュラー。お願いがあるんだ。お頭の友達の神父様をかくまってくれないかな?」
ソナはグレネーズとメリッサを見た。
ミュラーを呼ばれた男も二人を見た。見たというよりは、二人を観察した。
「まぁ、別にかまわないけど」
ミュラーは、観察が終わると興味なさそうにそう答えた。
ソナは、小さく「やった」と良い、グレネーズを見た。
「神父様。ミュラーは、俺と同じソナタの一員だ。ミュラーは頼りになるから、逃げ惑うより安全だよ」
「ありがとうございます。ですが、メリーは連れて行ってあげてください」
「え!?」
グレネーズの言葉を聞き、メリッサが驚きの声を出す。
「神父様、嫌です。神父様と一緒にいさせてください。親に捨てられた私を拾ってくれたのは神父様です。一緒にいさせて下さい」
メリッサは、グレネーズの服を掴み、懇願する。
だが、グレネーズはメリッサを引き離し、首を横に振った。
「いいですか。メリッサ。貴方の両親は貴方を捨てたわけではありません。
貴方も、ファントムレイブと深いかかわりがあります。貴方はは忘れてしまっているのです。
メリザ地方に行けば、全て思い出します。ちゃんと護身用の銃は持っていますね?」
「神父様、嫌です! あんな所行きたくありません!」
メリッサは、グレネーズと別れたくないのか、泣きながら頼む。
だが、グレネーズは聞く耳もたなかった。
「メリッサ。貴方が全てを知った時、また会いましょう。
二人とも、メリッサを頼みました。そして、今度罪滅ぼしをさせて下さい」
最後の言葉はハノンに向けられていた。ソナは力強く頷く。
メリッサは、もう無駄だと思ったのか何も言わなかった。何も言わずに、二人について行った。
酒場を後にした三人は、まず宿をとった。
さすがは芸術の国。他国からも芸術家が訪れるのか、宿屋がたくさんあった。三人は街中の宿屋の三人部屋をとった。
「えーと、メリザ地方? へー、ルクソ共和国の端か」
宿で、ソナが地図を広げ、先ほどグレネーズが言っていたメリザ地方の場所を確認する。
地図には、アーツ国から西側の国、ルクソ共和国にメリザ地方はあった。
「えーと、メリッサ? メリッサはどうして神父様の所に居たの?」
先ほどのやりとりを見て気になったのか、一人離れているメリッサにソナが問う。
「私のことを聞く前に、先に何で旅しているのか答えなさいよ」
その場で、ソナ見て、メリッサはぶっきらぼうに答えた。
「それもそうだね。俺はソナ。こっちはハノン。旅の目的は、なんだろう。
アシェル王国を取り返して、親の仇を討つこと。俺はその手伝いをしてるの」
「親の仇ね……、そんなのくだらない。親は子供を捨てるのよ」
メリッサが鼻で笑い、ハノンを見る。ハノンは何も反応を示さなかった。
「メリッサは、親に捨てられたの?」
ソナが問う。雰囲気が、空気が悪い。メリッサはソナを見た。
「そうよ。私はメリザ地方出身で、親に捨てられたの。朝、目が覚めたら教会に居たわ。
私は親に、あの教会に捨てられたの。忘れてなんかいないわ。私の家は領主だった。
お金にも生活にも苦労していなかった。それなのに、捨てられたの。親なんてろくでもないものよ。
そんなんだから、ルクソ共和国は無事でも、メリザ地方は滅ぼされたのよ。親の仇なんてバカらしい」
メリッサはハノンを睨む。そんな時、ソナの腹がなった。
張り詰めていた空気が緩み、ソナは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「とりあえずさ、どっかにご飯食べに行こうよ。ね? もう夕食の時間は過ぎてるし」
ソナがそう言うと、ハノンとメリッサも自身が空腹であることを悟ったのか、三人は街へと出かけて行った。
街はもう夜だと言うのに、人で賑わっていた。
あまり人ごみを経験したことがないのか、メリッサはキョロキョロとあたりを見渡している。
「ハノンさ、さっきから何を考え込んでいるの?」
ソナがハノンの隣に行き、問うた。
ハノンはグレネーズを別れてからずっと何か考え事をしていた。
メリッサに何か言われても反応しなかったのはそのせいだ。ハノンはソナを見た。
「いや、考え事っていうか……。国を取り戻すのも、復讐するのもファントムレイブを潰さなきゃなって思ってて。
それと、何か大切なことを言われた気がするんだ。でも、それが思い出せないんだ」
ハノンは、そう言った後、また考え込み始めた。
メリッサはハノンの話しを聞いていたが、急に後ろを見た。
「どうしたの、メリッサ?」
どこかでパンを買ったソナが、そんなメリッサの様子に気付き、問う。
メリッサは、うっすらと冷や汗をかいていた。
「誰かに見られている気がしたけど、気のせいだったみたい」
メリッサの話しを聞き、ソナも後ろを見たが何も感じない。
「まぁ、いいや。何も感じないし。それより、何か食べようよー」
ソナは、ハノンとメリッサにパンと飲み物を渡す。
三人はその場でパンを食べ、食べ終わると、再び宿に向かって歩き始めた。
宿に戻ったことには、皆疲れていて、シャワーを浴び、直ぐに寝てしまった。
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