王の祈り
ソナとメリッサはハノン達と別れた後、何日も歩き、メリザ地方に来ていた。
ここに来るまで畑ばかりで、途中で農作業をしている人を見た。だが、どこもメリッサには見覚えがなかった。
自身がメリザ地方に居た時は、もっと緑で溢れかえっていたような気がした。
「何で私と来るなんて言ったの?」
農地を抜け、荒れた土地の上を歩く二人。家がまったく見つからない中、メリッサが問うた。
「え? だって、一人じゃ危ないし。またあんなのが出てきたら……」
あんなのとはナックルのことだろう。
もしかして、ついてきたことでメリッサが怒っていると思ったのか、ソナはしょんぼりとしている。
「別に悪いだなんて言ってない。だた、あんたはハノンについて行くと思ったの。だって、ハノンのことが好きなんでしょ?」
少し前を歩くメリッサが振り向き、ソナを見る。ソナはきょとんとした顔をしている。
「え? 好きだよ? だって、親友だし。でも、ハノンは一人でも大丈夫なんだ。
もう、俺が一緒にいなくても、ハノンは大丈夫。だって、俺、本当はハノンに復讐を止めさせたくてついて行ったんだもん。
でも、もう大丈夫。でもさ、何かメリッサのことはほっとけないんだよね。
守ってあげなきゃってなるし、守ってあげたいって思う。何かよくわかんないんだけど、メリッサはわかる?」
「わ、わかるわけないでしょ!」
ソナの返答につっけんどんに答えるメリッサ。
メリッサは再び前を向いて歩き出したが、何故か顔が赤く、熱く感じた。
暫く歩いていると、村が見えてきた。固まって木造の家が何軒か建っている。ソナとメリッサは、その村に向かった。
村の土も荒れていたが、一箇所だけ花壇のようになっていて、そこにはレモンバームが植えられていた。
腰の曲がった老婆が、そのレモンバームに水をやっていた。
「あの、すいません」
メリッサはその老婆に声をかけた。
もう、だいぶ髪が抜け落ち、白髪となった老婆は、じょうろを置き、メリッサのことを見た。
「あの、すみません。ちょっとお聞きしたいのですが」
メリッサの顔を見た瞬間、老婆の青い小さな目がみるみる丸くなっていき、驚いた顔をした。
メリッサにもソナにも、この老婆が何故こんなに驚いているのか検討もつかない。
「メリッサ様かいね?」
「え?」
「スローネ家のメリッサ様かいね?」
老婆はメリッサのことをまじまじと見た。メリッサはそんな老婆に驚いた。
この老婆は自分を知っているが、自分は老婆のことを知らないし、覚えてもいない。老婆はメリッサの手を握った。
「メリッサ様は、貴方様のお母様によって、隠されたのです。
敵が攻めてきて、貴方のお母様が貴方を抱いて逃げるのを婆は見ました。覚えていませんかね?」
メリッサは老婆の問いに首を振った。何も覚えていない。
ずっと捨てられたと思っていたけど、違かった。グレネーズやハノンの言うとおりだった。
「おばあちゃん、メリザ地方で何があったの?」
メリッサは老婆の目を見た。しわくちゃで醜い顔の老婆。老婆はポロポロと涙を流し始めた。
「全部、婆たちがいけなかった。
ここには、レモンバームしかなくて、領主様はメリザを支える為に、レモンバーム栽培のために手段を選ばなかった。
だが、それはしょうがないことだった。ここには、レモンバームしかない。婆達は領主様の命令で働いた。
辛い日々だったけど、今思うとしょうがない気がするんだよ。兄さんは働きすぎで死んじまったけど、無駄死にさ。
領主様が殺されて、土も荒れた。レモンバームも育たなくなった。結局、この土地には何も残っていない。
今思うと、何が悪くて良かったのかもわからないね。全て、しょうがないことだったんだ」
老婆は、ぽろぽろと涙を流した。
手段を選ばなかったということは、きっと何か酷いことをしたのだろう。だけど、今はもう何も残っていない。
当時のメリッサには、両親が何をやっていたのか知らない。レモンバームのことだって知らなかった。
両親は、メリッサには何も話してくれなかった。レンから聞いて、老婆から聞いて初めてわかったこと。
だけど、この土地は確かに両親が残した物。
ずっと勘違いしていたこと。自分は親に捨てられていなかった。
「何言ってるの、おばあちゃん! レモンバーム残っているじゃない! 大丈夫よ! 皆で力をあわせれば、
土だって復活するわ! また皆で頑張りましょう? メリザを復活させよう!」
メリッサは、にっこりと笑った。ただ嘆いているだけでは何も始まらない。老婆は再びメリッサの手をぎゅっと握り締めた。
「何て力強いお言葉……。そうだ。頑張りましょう! 土を、メリザを復活させましょう!」
「うん。でも、おばあちゃん。その前に、私やることがあるの。友達を助けに行くの」
「メリッサ!」
メリッサは感激の涙を流す老婆に、そう言った。
それを聞いたソナが、笑顔になった。メリッサはソナを見た。
「いけすかない奴だけど、友達だもん。助けなくちゃね」
メリッサはそうにっこりと笑った。
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