王の祈り


城に近い広場に、腐敗した死体が張り付けにされ、放置されていた。中には白骨化しているものもあり、誰の死体であるか、女なのか男なのかすらもわからなくなっていた。
身に付けている衣服から、白骨化した死体は裕福な者であることがわかった。

「うわっ……」

ルイは思わず、手で口を覆った。

「彼らは見せしめです。あの日のまま放置されてあるのもいます。こっちです」

何度か城に入ったことがあるのか、ウィルはなれた足取りで城へと向かい、崩れた城壁を越えて城の敷地へと入る。
ハノンとルイもそれに続く。

「聞いた話ですけど、ファントムレイブのボスが城の中にいるみたいです。 ですが、そのボスがどこにいるのかがわからないんです。何度か城の中には入ったことはあるんですけど、すぐ見つかっちゃったりで、 潜入捜査してくれている人たちは連絡がつかなくて……」

ウィルは、はやり慣れた足取りで、城の敷地内を歩く。
何度も潜入し、このルートが一番安全だと知ってのことか、敵の姿も見えない。

「まぁ、城の中に入るのは簡単ですよ。案外堂々としれいればすぐに入れます」

あたりを警戒しているハノンとルイに、ウィルはにっこり笑ってそう言った。




ウィルの言うとおりだった。こんなに簡単で良いのかというくらい、城に入るのは簡単だった。三人は、裏門から堂々と城の中に入ったのだ。全く怪しまれずに。
ウィルの話だと、外にいる警備や門番は、元アシェル王国の兵士で、奴らにこき使われているだけらしい。
なるべく、奴らと関わりたくなく、めんどうを起こしたくないし、殺されたくも無いから、彼らはただ突っ立っているだけのお飾り警備で、本当の仕事は、奴らに殺された人の回収。 これは、本人達に聞いたから正しい情報ではあると言っていた。
正門から入らない理由は、目立つからとのことだった。また、問題は、城の中かららしい。城の中に入ってからがヤバイとのことらしい。

「見つかったらバラバラになって逃げましょう」

歩きながら、ウィルの言葉に頷く二人。ハノンは城の中を見渡した。
懐かしい我が家。でも、何かが、何処かが違う。何だか、城の外が騒がしい。誰かの大声が聞こえてきた。

「外は一体どうしたんだろう」

ふと呟くルイ。こんな所まで、聞こえるなんてよっぽどの人が外にいるのだろうか。

「きっとフィリップ様達が、敵の目を引き付けているんだと思います。今のうちに急いでボスを探しましょう!」

ウィルはそう答えたが、思い通りにはいかなかった。
侵入者に気付いたからなのか、それとも偶然なのか、ロデルとルイと同じ歳くらいの感情の無い目をした女の子が行く手を塞いだ。 ウィルは、その女の子を見て驚き、動きが止まった。

「へぇー、外で大勢の奴が騒いでいると思ったら、こっちが本物か。しかも、一人は教会で遭ったよね。もう一人はウィルじゃないか。ウチに入りにきたの?」

ニコニコと笑うロデル。ウィルは女の子のことを見て、声をあげた。

「ウィニー! やっと見つけた! ウィニー! 俺だよ、ウィルだよ! 兄ちゃんだよ、わかるだろ?」

ロデルと一緒にいたのはウィルがずっと探していた妹。あの時守れなかった妹が目の前にいる。
ウィニーは銃を持っている。ハノンは、ウィニーの様子が変なことに気付いた。

「あ、この子ウィニーっていうの? でも、今は違うよ。 そこのガキならわかると思うけど、ハイエナと同じ奴。これだけ言えばわかるだろ?」

意地悪く笑うロデル。ハイエナとはナックルのことだろうか。同じ奴というのは、ウィニーも脳を改造されたと言うのか。
脳を壊したら人は中々元に戻らない。ウィルの態度や、言葉からウィルの妹なら話し合えばわかるかもと思ったが、それすらも出来ない。ハノンだけがそれを知っている。

「お二人とも。ここは俺に任せてください。あいつの言っていることはよくわからないですけど、ウィニーをあんな風にしてしまったのは俺の責任です。 俺がウィニーを守れなかったから。だから、ここは行って下さい」

ウィルは、じっとウィニーを見ていた。
あの時、ナックルから助けてくれた女の人に似ているとハノンはふと思った。

「わかった。ここは頼んだぞ」

一緒に戦おうかとも思った。が、誰か一人がボスを見つければハノンの勝ちである。
ウィルは、腰の剣を抜き、ウィニーに向き合った。実の妹と向き合うのがどんなに辛いことか、ハノンにはわからない。きっと、想像も出来ないくらい辛いことだろう。
向き合うウィルとウィニー。その横を通り、前に進もうとするハノンとルイだが、ロデルに邪魔された。ロデルは相変わらず意地悪そうに笑っている。
ルイが、剣を構えて一歩前に出る。

「ここは僕に任せて。足止めぐらいなら出来るよ。僕だって強くなったんだ。だから、姉さんは速く!!」

ルイはロデルと向き合う。ロデルが何かに気付いたのか、ハノンを見る。

「お前、まさか……」
「姉さん、速く!!」

ハノンに近づこうとするロデル。そんなロデルとハノンの間に割って入るルイ。
ハノンは一度ロデルと遭っていることから、ロデルの強さは知っているつもりでいた。ルイが危ないこともわかっていた。
だが、ハノンは前を向き、ルイに背中を押されるように走り出した。




胸騒ぎがする。外で騒ぐ人を見て、その中にフィリップがいることを見て。ロデルと電話が繋がらないことに気付いて。
ロアは何かが起こると感じた。外で溢れている人の目は、皆希望に満ち溢れている。何も映していない絶望に溢れた目をした国民達の目が、一瞬にして希望の光に変った。
あの目が、また脳裏に浮かぶ。

「そうか。戻ってきたのか」

忘れられなくなった目。何年か前に海を渡った子供。
この間のロデルの話で、生きていることはわかっていたが。

「戻ってこなければ、死なずにすんだものを」

せっかく戻ってきたんだ。
絶望を味あわせ、目の光を消してやろうと、ロアは剣を持ち、部屋を後にした。



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