王の祈り


この国に入った時、これが国かよと思ったのが、ソナとメリッサの最初の印象だ。
ソナとメリッサは馬に乗っていた。

「酷い国ね。あの子はこんな国のために命をかけているのね」

廃墟とかした国。国を取り戻したいという思いは、王族の血がそうさせるのか。
領主の子であるメリッサは、そんなことを考えていた。

「にしても、まさか皆手伝ってくれるなんて驚きだね」

ソナが後ろを振り返る。ソナとメリッサの後ろには、馬に乗ったメリザ地方の人たち。
メリッサが事情を話すと、手伝うと言ってくれたのだ。メリッサは、何だか胸がいっぱいになった。

「きっと同じ目にあったからほっとけないのよ。城はあっちね。急ぎましょう」

メリッサはそう言い、皆を率いて馬を走らせた。




見覚えのある懐かしい人物が目の前にいた。
かつて、自分に様々なことを教えてくれた人。信じたくは無いが、その人が目の前にいる。

「ロア」

ハノンは、目の前にいる人物の名を呼んだ。
こげ茶色の髪に、体格のいい体。見間違えるはずがない。あれだけ一緒にいたのだから。

「その様子だと、全てわかっているようですね。私のことも。まさか、生きているとは思いませんでしたよ。ハノン様」

ロアは張り付いた笑顔で笑う。自分に笑いかけてくれていた笑顔も、今は嘘だとわかる。
ロアはハノンの目を見た。忘れられなかった光。その光は一度失われてしまったが、輝きを増してロアを見ている。

「知っているよ。ファントムレイブのことも全部」

グレネーズやレンが言っていたことを思い出す。ファントムレイブのメンバーのこと。
目の前にいるこの男も、きっと国の犠牲者なのだ。

「私は戦わない」

ハノンは輝きを増した目で、真っ直ぐロアを見た。ロアはその目を見ないようにし目を逸らした。

「私は戦わない。父様と母様を殺した奴が憎かった。幸せな生活を奪った奴らが憎かった。 だから、剣を学んだ。復讐しようと、両親の仇を討つために。でも、それじゃあダメなんだ。それじゃあ、今までと何もかわらない」

憎しみは憎しみを、復讐は復讐を生む。それ以外のものは生まない。
憎しみがずっと続けば、世界はいつか憎しみで覆われてしまう。だが、ロアはそんな思いをバカにしたかのように鼻で笑った。

「戦わないなら、何故貴方はここに戻ってきたんですか? 私達を倒し、国を取り戻すためでしょう? 私達を殺さなければ国は戻りませんよ」

そんなの甘いというように笑うロア。どちらかが死ななければ終わらないというロア。
ハノンにはその考えが理解できなかった。

「私は、ファントムレイブのボスに会いに来たの。居場所を教えて」
「ダメです。教えられません。貴方を殺せば、全てが終わるのです。私たちの目的は、ボスの夢は叶うのです」

ロアは冷たい目でハノンを見下ろし、銃口を向けた。
ナイフが飛んできた。銃を持っているロアの腕目掛けて。ロアは銃口を下ろし、ナイフを銃で叩き落とす。ナイフは床に落ちた。

「ハノンは殺させないよ」
「そうよ。大切な友達ですもの」

ハノンの背後からソナとメリッサが現れた。
二人とも所々怪我をしているが、二人はハノンを挟むようにして、脇に立った。

「ソナ? メリッサ?」

目を丸くして、二人をみるハノン。来るとは思わなかったので、驚きが隠せない。
だが、同時に何だかとても嬉しくなった。

「何驚いているのよ。友達でしょ、助けに来るのは当たり前」
「ここはさ、俺とメリッサが引き受けるから。ハノンは早くボスを探して話をつけてこいよ」

メリッサとソナはにっこり笑う。ロアは、無表情で現れた二人を見た。
ウィルも、ルイもどうなったかわからない。だが、ここで、ここを切り抜けなければ何も残らない。ハノンは決心し、二人を見た。

「二人とも。ロアは強いよ。逃げていいからね」
「大丈夫。初めからそのつもり。じゃあ、始めるわよ!」

メリッサの合図に再びソナがナイフを投げる。ロアは腰に刺してある剣を抜き、ナイフを叩き落す。
ハノンはその隙に、行く手を拒んでいたロアを抜けた。ロアの脇をすり抜け、全速力で走った。
再びロア目掛けてナイフが飛んでくる。ロアはナイフに気をとられ、一瞬動きが遅れ、ハノンに手を伸ばしたが届かなかった。ハノンは後ろを振り向かずに走った。
あちこちで、戦いが起こっている。どちらが倒されても、今日歴史が変わる。



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