王の祈り


城を出て、ロデルはバンク国に居た。

「たっく、先輩も人使いが粗いんだから。武器商人の所から武器を買って来いだなんて。 てか、あいつはもう武器商人じゃねーっつーの」

アシェル王国からバンク国までは遠い。ブローレンス国を抜けて、バンク国へと向かう。
ブローレンス国は、数年前にアシェル王国と同じような形で、侵略した。
かといって、バンク国に行くのが遠いのは変わりない。

「確か、グレネーズがいる所はバンク国はずれの教会……、ここで良かったはず」

目の前にある教会を見上げ、馬を木にくくりつける。
バンク国のはずれにある教会。昔からここにあるのか、だいぶ古ぼけている。
規模もそんなには大きくはなく、町からも遠いため、一体誰がこの教会にお祈りに来るというのか。
人がくる気配も、中に誰かがいる気配もない。そもそも教会から直ぐ森という時点で、人はあまり来ないだろう。 実際、この古い教会も、木のつたが絡まり、もうすぐ森に飲み込まれそうだ。

「っていうか、あのグレネーズが神父ねー。どうりで、探してもいないわけだ」

ロデルはそう言いながら、教会の重い扉をあける。
自分には合わない場所だと苦笑しながら。

「おや? もしかして、その髪の色はロデルくんですか? 随分と久しぶりですね。見違えるくらい大きくなって」

教会の中に入ると、一人のひょろっとした神父がいた。
神父は聖書を読んでいたのか、聖書を閉じ、昔の知り合いに、にっこりと笑いかけた。
ロデルは神父を見て、ニヤリを笑った。

「そうですね。グレネーズさん、俺欲しいものがあるんですけど」
「欲しいものですか? 神は全て貴方に望むものを差し上げていると思いますが?」

グレネーズと呼ばれた茶色の髪をした神父は微笑みを絶やさない。
ロデルとグレネーズが話していると、栗色の長い髪で、透き通るような、 まるで宝石のような青い目をしたシスターの少女が箒を持ってやってきた。
少女はロデルに気付き、軽く会釈をし、教会の掃除を始めた。

「グレネーズさん、すっとぼけんなよ。わかってるんだろ? 昔、俺達に売っていたもんだよ。 まだ隠し持ってるんだろ? どこにあるんだい?」

ロデルは少女に聞こえないようにグレネーズに耳打ちした。
グレネーズの表情が一瞬変ったが、直ぐに笑みを取り戻す。

「なんの話ですか? 私は今も昔も神父。私が出来ることと言ったらお祈りや、懺悔を聞くことくらいですよ」
「そう。あくまでも、しらを切るつもりなんだ。うち、あんたのお得意様じゃなかったの?」

ロデルは何かを企んでいるかのように、ニヤリと笑う。
ロデルは、チラリと少女のことを見た。

「ねぇ、グレネーズさん。あの子、どこの子?」

ロデルは、顎で掃除をしている少女を指す。
グレネーズも少女を見て、再びにっこりと笑う。

「あぁ、あの子は知り合いの子ですよ。預かっているんです」
「ふーん? グレネーズさん、神父様が嘘はいけないな。 俺が前にあんたに会った時には、あの子いなかったよね。 どのくらい前だっけ? ブローレンス国の時はどこかに消えていたから、無理だったけど、 アシェル王国、メリザ地方はあんたの所から武器を買ったかよね? ってことは、 メリザ地方を潰すちょっと前だよね、最後に会ったの」
「嘘なんかついてないですよ。その後、知り合いから預かったのです」

ロデルがグレネーズにカマをかけようとしても、グレネーズは笑うだけで、ひっかかららない。
ただただ、笑うだけのグレネーズに流石のロデルもお手上げなのか、深い溜息をついた。

「まぁ、いいけど。後でどうなっても知らないからね」

ロデルはニヤリと笑い、グレネーズから離れた。
最後にもう一度少女とチラリと見て、教会を出る。
教会の扉を閉め、ロデルは直ぐに携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけた。四コール目で相手と繋がる。

「あー、先輩? 俺っす。ロデルっす。ダメっすね、グレネーズの奴、何も答えないっす。 あ、後グレネーズのところにメリザ地方の女の子がいました。 本当っすよ、あの目は確かにメリザ地方に見られる目っす。髪色だって。 確か、スローネ家の娘が未だに行方不明っすよね? どうします? あ、 グレネーズもろともハイエナにやるんですか? あ、はーい。わかりました、行って来ます」

一方的に電話を切れれた後、ロデルは溜息をついた。

「相変わらず先輩は人使いが粗いなー……」

ロデルは再び馬に乗り、バンク国を後にした。  



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