ポラリス
絨毯は、古ぼけた一軒の家の前で止まり地面にハラリと落ちた。
オリオンは、僕たちが絨毯から降りるのを見て絨毯を丸め、脇に抱えた。風が冷たい。もう冬も近いね。
「ここは俺たちのアジト。星の住みかだ。特別に二人を招待してやるよ」
オリオンがニカっと笑い、ドアを開け、僕たちを招き入れてくれた。僕とカノープスはおそるおそる中に入った。
中は、ただっ広い部屋が一部屋あるだけだ。
隅の方にはベッドが四つ置いてあって、部屋の真ん中には大きなテーブルと、その周りにはイスが置いてある。
奥にはキッチンがあるのかな? あのドアはトイレにでも繋がってるのかな? ここ、ガスとか電気はあるのだろうかと考えていたら、
リゲルがテーブルの上に置いてあったランプに火を灯した。
「住みかってことは、皆でここに住んでるの? 父さんや母さんは?」
ランプに照らされたカノープスが、イスに座ったオリオンに聞いた。
ペテルギウスはいつのまにかベッドに座り、本と読んでいる。
「ペテルギウスとベラトリックスは孤児なんだ。リゲルは違うけど、一緒に住んでる」
「え、オリオンも孤児なの? それに子供だけで生活なんて出来るの? 水道とかガスはどうしてるの?」
思わず口に出た。オリオンが孤児かどうかなんて聞かない方がいいことだってのは言った後に気付いた。
カノープスが僕の横で「ポラリスは変なこと聞くなぁ」と呟いた。変なことっていうのは、水道とかのことかな。
でも、ちょっと気になるじゃないか。
「まず俺のことだけど、俺は小さいときのことは覚えてないんだ。
気付いたら病院にいて、だから俺が孤児かどうかっていうのは俺もわからない。
後、子供だけの生活っていうのは、まぁ難しいけど、何とかなってるよ。
ベラトリックスは、日中パン屋で働いてるし、ペテルギウスは煙突掃除とか、リゲルは新聞配達とか。
俺も俺で絨毯使って色々やっているし。俺が仕事サボるとガスとか止められるけどさ」
オリオンはニカっと笑った。子供なのに働いてるんだ。素直に凄いと思った。
じゃあ、もしかしてオリオンたちは学校とかには行ってないのかな?
それにしても、オリオンの覚えてないってことはどうゆうことなんだろう?
「そんなことよりもうすぐ昼食だろ? ベラトリックス、何かないか?」
オリオンは、キッチンにいるベラトリックスに問うた。そうか。もうお昼か。
何だかまだ聞きたいことがいっぱいあるよ。オリオンの色々やってるの色々とか。食費は働いたお金でどうにかやってるのかな?
うーん、聞きたいけどあんまり聞きまくると何かヤだしな。
「この間貰った食パンがまだの残ってるわ。リゲル、手伝ってくれる?」
ベラトリックスは、ペテルギウスの隣で本を読んでいるリゲルを呼んだ。
リゲルは本を置き、跳ぶように走って行った。
「ベラトリックスはパン屋で働いているから、売れ残ったパンとかを貰ってきてくれるんだ」
リゲルがベラトリックスの手伝いをしながら、僕たちにそう教えてくれた。
それから、僕たちは、星の住みかでパサパサした食パンを食べた。
ちょっとカビみたいのがはえていたけど、そこの部分はとり、ベラトリックスが簡単なスープを作ってくれた。
今まで食べたご飯の中で一番味がしなかったけど、一番楽しかった。
皆で食べるご飯がこんなに楽しいものだなんて僕はすっかり忘れてしまっていたよ。だって、ここ何カ月も皆で何かご飯食べてないもの。
いつもカノープスと二人だけ。約束だって破る。でも、今はこんなに楽しい。
だから、そのことは考えないようにし、心の奥底にしまいこんだ。
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