割れる空


“空に一番近い国”僕はそう呼ばれている国を見つけた。
そこに住んでいる人々は、気付くものは神の怒りだと怯え、気付かないものはあいかわらずに過ごしていた。
空がひび割れをおこしているのに誰も気づかない。見ようともしない。
このひび割れはすべての空に感染していく。あの空の終わりにも届くのかな?
でも、もしすべての空が割れたら? 空は地上にふってくるのかな?
でも、空は海だからきっと空はいつの日かもとどおりになるね。それが再生。

「ねぇ、ちょっと」

僕が空を見ていると、1人のこの国の女の子に話しかけられた。

「あんた、旅のもんだろ? この間変な時計が現れたけど、あんたも見たかい? 海も崩れてその次はこれだ。空が今にも割れそうじゃないか。いったいどうなってんだい?」

女の子は空を見上げた。この女の子にも見えていたんだね。まだ、見える人がいたんだ。もしかしたら、見える人が残るのかもしれない。僕の友達は無事かなぁ?

「崩壊だよ。ノアの方舟と同じであり、竜たちは地上から姿を消したときと同じようなものだと、僕のおばあ様は言っていたよ」

うん。僕が言っていることは大抵おばあ様から聞いた話。それに、こんな話を出来るのは世界中どこを探したっておばあ様しかいないと、僕は思う。
その時だ。僕たちが一瞬空から目をはなしたとき。空が粉々に割れたんだ。音もなく。
空の破片が降ってきた。まるで、水でできた塊のようだったけど、不思議と冷たくはなかった。僕が空の中に入ったときと同じ感触だった。

「古い空は割れ、新しい空になる……」

僕はそう呟いた。女の子は僕の方をみた。
この壊れた空の中に、あのときの翼のある男の子を見た気がした。そして、壊れた空の上に、1本の線のような小さな空があった。
僕と女の子はしばらくそれを見つめていた。







私は、この空のひび割れに気付かなかった。見えなかった。
いや、ほとんどの人が見えなかった。
でも、私にも見えた。この新しい空は。私はこれを見たときの感動を今でも忘れていない。
私は少しセトの見ている世界に近づいたのか?



 BACK|モドル|>>NEXT