血が飲めない吸血鬼


今日は雪だった。
微かに風も吹いていた。
僕は今、魔界にいる。
魔界とは、悪魔や魔族が住むことろ。
僕は今そこにいるんだ。
今日はその魔界1日目。
僕は吸血鬼の国で1人の男の子と遭った。
背は僕より小さく、目は深い青色で、髪は茶。
そう、今回書くのはその子のこと。
僕とその子は、出会うべきして出会ったのかもしれない。


「やーい! ニセ吸血鬼〜〜!!」
「お前何かどっか行っちまえ〜!!」

その子はいつもそう言われ、石を投げられていた。
その子は血が飲めない。
いや、血が飲めないだけでなく、吸血鬼的能力がなんにもない。
あるとすれば……小さな黒い蝙蝠の羽だけだ。
でもね、その子の両親も兄弟も祖父祖母も普通の吸血鬼なんだ。

「やめて!! 痛いっ!!」

その子は、石を投げられどうすることも出来なかったと教えてくれた。
もちろん、何故血が飲めないかはその子にもわからないんだ。
多分血が飲めないから、能力がないんじゃないかな? とその子は言っていた。
不思議なことで済まされればいいんだけど、ここは魔界。
そして、その子の家柄はあまり良いものでもない。
どこに言っても劣等生というものはいじめられるものらしい。
幸いその子が住む町は王様がいる都から随分遠いから、その子みたいのがいても何も起こらないと教えてくれた。


僕がその子と出会った時、その子は白いウサギのぬいぐるみと一緒に丘の上にいた。

「ねぇ! ちょっと聞きたいんだけど、ここって魔界だよね?」

僕はその子にそう話しかけた。
その子は僕がいつからいたのか、どこから来たのか問い詰めようと思ったらしい。
急に現れたから。
まぁ、これは後から聞いた話なんだけどね。

「……そうだけど、君は誰?」

その子は奇妙そうな顔で僕のことを見ていた。
でも、僕はにこにこと笑うだけ。

「僕はセト。世界の果てを目指して旅をしてるんだ。君は?」

その子は僕の名前なんか知りたいんじゃなかったかもしれない。
それに、その子は僕みたいに奇妙な奴に名前を聞かれたくなかったかもしれない。
それでも、僕はにこにこ笑うだけ。

「……ブラッド」

その子はボソっとそう言った。
それからは、僕のマシンガントーク。
そのお陰で、僕とブラッドは随分早くにうちとけることが出来た。

「僕は血が体内に入ると、なぜかはわからないんだけど、逆流して全ての血が噴出しちゃうんだ。だから僕は血が飲めないの。その代わり、他の人より色んなものを食べれるし、太陽も平気だよ」

ブラッドは、そう自分のことを話してくれた。
僕も、そのお礼に自分のことや、たくさんの世界の話をしてあげた。
ブラッドとの時間は、苺がたくさんのってるショートケーキのように楽しい時間だった。
ブラッドは自分の家族のことも話してくれた。
そして、いじめられてることも。

「言い返したり、やり返したりしないの?」

僕がそう言うと、ブラッドはしゅんとして、俯いた。

「怖いの? でも、言いたいことは言わないと駄目だよ?」

僕は弟を慰めるように、ブラッドの頭を撫でてやった。
まぁ、僕には弟なんていないけどさ。
「……でも、皆僕より強いし、僕すぐ泣くし……」
「大丈夫だって! ね?」

僕が今度は励ますように言うと、ブラッドはコクンと頷いた。



僕はこの吸血鬼の国に1泊した。
もちろん、ブラッドとは約束もしていないのに、あの丘で遭い、色んなことを話した。
そう、あの時も丘の上に居た。


僕はブラッドと話しているうちにわかったことがある。
一応言いたいことは言えるんだけど、それが弱いんだ。
強く言えるようになればいいんだけど……。


次の日、つまり1泊した後。
僕が丘の上に行くと、ブラッドは数人の人たちに集団リンチのようなものにあっていた。

「お前生意気なんだよ!! 血も飲めないくせに!!」

体格のいいリーダー格の奴が理不尽な理由でブラッドを蹴った。

「痛いっ!! やめて!!」

ブラッドは、自身の身を守るので精一杯そうだった。
でも、多勢に無勢といったところって感じだった。
他の奴らも「ブラッドのくせに」とか「チビはどうの」とかいう理不尽な理由で、暴力を振るっていた。
ブラッドは泣いていた。

「ちょっと!! 何、その理不尽な理由!! やめなよ!」

僕もきっとこんな事を言っちゃったんだから、理不尽は理由で集団リンチみたいな感じになるんだろう。
でも、もう言っちゃったから遅いのさ。
案の定、梅干みたいな顔したやつらは僕の方を見た。

「んだと、テメェ!!」

案の定、僕は蹴り飛ばされて、吹っ飛んだ。
かなり痛いぞ、これは。

「セトくん!!」

ブラッドの声が聞こえた。
この状況は腐ったヨーグルトを誤って食べたときよりもキツイ。
案の定、梅干たちは僕をリンチし始めた。

「やめて! セトくんをいじめないで!!」

ブラッドがリーダー格の梅干を止めようとしている。
でも、ブラッドの体格と力じゃ止められず、吹っ飛ばされてしまった。
何回も、何回も……。
そして、梅干たちが僕をリンチするのに夢中になってるころ……。

「…………天誅!!!!!」

ブラッドが、あの白いウサギのぬいぐるみで、思いっきりリーダー格の梅干の頭をぶん殴った。
それも脳天から。
いい音がし、リーダー格の梅干はその場に倒れた。
どうやら……石をつめて、ぶん殴ったらしい。

「やめろって言ってるのがわからないん? どーせ君たちの×なんか、××並なのかな? いや、××以下だから言葉が理解できなかったのかな? それともこのぬいぐるみで、殴られて×を××××××にされたいのかなぁ? あぁ、それとも×××をあげるくらいの××方がいいのかな? まぁ、僕にはそんな趣味はないけどね。君たちの×××なんてキモそうだし? それともあれ? どっかに売られて×××て、×で外につるされたい? いやだねぇ、×××て×でつるされるなんて、恥ずかしくて自分から××たくなるよねぇ〜?」

ブラッドはそう言い、笑いながらリーダー格の梅干を殴り続けた。
じんわりと、白ウサギに赤い転々が出来た。
×××になってるところは、聞こえづらくて、僕にはよくわからなかった。

「やめて!! もう、やめて!!」

1人の梅干が、ブラッドを止めようとした。
リーダー格の梅干は、気を失い顔の形がわからなくなっていた。
ブラッドは、その止めに入った梅干の前髪を掴んだ。

「じゃあ、もう僕に構わないでねぇ? 約束だよ。約束守らないと、××××××にして、×××やるから」

そして、梅干たちは一目散に逃げて行った。
僕は助けてもらったことと、ちょっとやりすぎじゃないかと言い、次の国の旅立った。


生きている者の中には、必ず怒るという感情がある。
いくら、臆病でも、その怒るという感情には勝てなかったんだ。
だから、僕はその怒るという感情をコントロールすることが大切だと思う。
コントロールしていれば、大激怒っていうのはあんまりなくなると思う。
逆ギレとかもね。







これは、セトが日記を書くようになってから2回目に残したものである。
私はセトみたいに魔界には行けないので、これが本当のことかはわからない。
だが、これは本当のことなのだ。
この日記には「ブラッド」という血が飲めない吸血鬼が出てくる。
私は彼に会うことは出来ない。
私は子供時代のセトを知っているかもしれないのだ。
だから、「ブラッド」がこれを読んでいたら、私のところに来て欲しい。
これは、強制ではない。
ただ、私は「ブラッド」にセトが話した自分のことが知りたいだけなのだ。



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