狼になれない人狼


今日は雨だった。
風はそんなに吹いてはいなかった。
僕は今、魔界にいる。
今日は魔界3日目。
僕は人狼がいる国で、1人の少年と出会った。
背はぼくより高く、茶髪で茶色の目をしてた。
そして、その子は狼の耳と尻尾を持っていた。
今回書くのはその子のこと。
僕とその子は出会うできして、出会ったのかもしれない。



「何で満月じゃないのに、耳や尻尾があるの?」
「どーして満月なのに狼にならないの?」

その子はいつもそう言われていた。
満月の夜に狼になれず、普通の日は、耳と尻尾がある。
これってすごく目立つことだよね?

「ちょっと初めての満月のときに変なこと考えちゃってね」

その子はいつも苦笑しながら、そう答えてたと教えてくれた。
今回の子は、いつもと違って何故自分が狼になれないか知ってるんだ。
それはね、怖くなっちゃったんだって。
本能むき出しで狼になる自分たちが。
その恐怖を考え、狼に完璧にならなかったんだ。
今回は不思議なことじゃないね。



僕とその子が会ったとき、その子は1人でいた。
1人で林の中の切り株の上に座っていた。

「ねぇ! ちょっと聞きたいんだけど、ここって人狼とかの国だよね?」

僕はその子にそう話しかけた。
その子は僕がいつからいたのか、どこから来たのか聞こうと思ったらしい。
急に現れたから。
まぁ、それは後から聞いた話なんだけどね。

「……そうだけど、誰?」

その子は奇妙そうに僕のことを見ていた。
でも、僕はにこにこ笑うだけ。

「僕はセト。世界の果てを目指して旅をしてるんだ。君は?」

その子は僕の名前を知りたいんじゃなかったのかもしれない。
そして、その子は僕みたいな奇妙な奴に名前を聞かれたくなかったのかもしれない。
それでも、僕はにこにこ笑うだけ。
「……ルピナス」

その子はボソっと、でもはっきりとした声でそう言った。
今日は……満月だった。

「君は人狼だよね?」

僕はまじまじとルピナスを見た。
ルピナスは少し嫌な顔をした。

「そうだよ、他に何に見えるんだよ?」

犬かなぁ、と言ったらルピナスに怒られた。
同じイヌ科じゃん! っていったら、さらに怒られたよ、一緒にすんな! ってね。



そんなこんなで、ルピナスとは友達になったんだけど、ルピナスったら短気ですぐ怒るんだ。
まるで唐辛子みたいだ。
でもね、すっごくいい奴なんだよ。
きっと辛くない唐辛子だね。
ここで、僕はルピナスが狼になれないことを聞いた。

「でも、俺はそれでもいいと思ってるんだ。俺は満月の夜でも俺でいられる。俺にはそれが嬉しいと同時に誇らしいよ」

ルピナスは笑っていた。
遠くて狼の遠吠えが聞こえた。

「ルピナスは強いんだね。人と違うってことは怖いことだよ? ルピナスは怖くないの?」

皆、人と違って寂しがっていた。怖がっていた。
だって人と違うってことは、とても寂しいことだから。
僕も……人と違うところがあるのかな?
だから、たまに寂しくなったりするのかな?

「強くなんかないよ。何か、もう慣れちゃってさ。最近じゃ狼になれなのを個性と思ってるよ」

ルピナスは甘いチョコレートのように笑っていた。

「皆さ、気にしすぎなんだよ。違う奴らも周りの奴らも。違ってて何が悪いのさ? 全部、同じ奴なんかこの世に存在しないんだぜ? だったら、俺みたいな奴がいてもいいじゃないか。それに、同じって結構つまらないじゃん」

僕は間違っていた。
ルピナスは唐辛子じゃないね、マシュマロだね。
あのふわふわで、優しいマシュマロだ。
僕とルピナスはここで別れた。
うん、やっぱりルピナスは強いよ。
ルピナスは一番難しい、受け入れるってことが出来ている。
僕もルピナスのようになれたらいいなぁ。







これは、セトが日記を書くようになってから4回目に残したものである。
私はセトみたいに魔界には行けないので、これが本当のことかはわからない。
だが、これは本当のことなのだ。
この日記には「ルピナス」という狼になれない人狼が出てくる。
私は彼に会うことは出来ない。
今回の日記は他のと違い短く書いてある。
それは、セトは受け入れるということが出来てないのか。
もし、これを読んでいたら「ルピナス」、私に会いに来て欲しい。
君の受け入れるというのを知りたいんだ。



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