過去
これは、誰かがまだ小さい頃の話。
「世界はね、丸いとはかぎらないの。もちろん1つともかぎらないのよ。たくさんの、色々な世界があるの」
おばあ様は寝たきりだというのに、よくそんな戯言を言っていた。
いや、狂言ともいうべきか。
ついに頭までおかしくなったのか、と思った。
「よくお聞き、世界にはいくつもの矛盾を起こす要素がたくさんあるの。矛盾が起きなければ、世界は正常に回っていくわ。でもね、一度矛盾が起こってしまうと最終的に、世界は崩壊へと導かれる。そして、また長い時間をかけて再生していくの。そう、落ち葉が土に還り、若葉がまた芽吹くようにね」
正直、おばあ様の話はよくわからない。
複雑そうで、まるで年寄りの戯言、いや狂言みたいだ。
僕とおばあ様は血が繋がっていない。
おばあ様の話によると、おばあ様がたくさんの世界を旅しているときに、どこかの世界で拾ったらしい。
「私は随分長く生きた。体の年齢がついに、追いついてしまったんだね」
ほら、また意味のわからないことを言ってる。
おばあ様は今では、80歳くらいの人だ。
でもさ、実は去年までは30歳くらいの外見をしてたんだよね。
たった1年で、人が急に年をとることなんかない。
きっとおばあ様は極度の若作りでもしていたんだ。
「私はね、1つだけ見ることが出来なかった。時間がなくなってしまったからね。人は生まれながらにして自分の時間を持っている。私の時間は少し足りなかった。お前なら、私が見たかったものが見れるかもしれないね」
また変なことを言い出したよ。
その前に、このかよわい僕に行けというのかい、このおばあ様は。
「もー。僕、友達と遊びに行ってくるからねー」
「はいはい、いってらっしゃい」
おばあ様は笑顔で手を振っていた。
「それでねー、おばあ様ったらまた変なこと言ったんだよー」
僕はいつものように、友達にそう話した。
友達もいつものように話を聞いてくれた。
「またダイナミックな話だねー。でも、元気でなによりだ」
友達はあははと笑い、そう言った。
僕はこんな毎日が好きだった。
今日はすこし、風が冷たかった。
家の窓を少し開けてきてしまった。
僕は、そんなことを忘れ友達と遊んでいた。
家に帰ったときは、もう日は落ちていた。
「おばあ様、ただいまー」
返事がなかった。
いつも「おかえり」って言ってくれるのに。
僕はおばあ様のところにいった。
「おばあ様?」
おばあ様は眠っていた。
このままでは、風邪をひいてしまう、窓をしめないと。
でも、もう遅かった。
僕がおばあ様を起こそうと触れたとき、おばあ様は冷たくなっていた。
僕のせいだ、僕が窓を開けたまま出て行ってしまったから。
あぁ、もしかしてこれが矛盾というものなのかもしれない。
1年ですごく歳をとるのは矛盾している。
だから、おばあ様は崩壊してしまったんだ。
なら、僕はどうする?
僕が取るべき行動は1つだけ。
「大好きだよ、おばあ様」
そう、おばあ様の見たかったものを見に行く旅だ。
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