雫と虹


星空の国は夕暮れの街とは、随分と違った雰囲気を出していた。夕暮れの街が綺麗で不思議なら、星空の国は神秘的。
空を見上げるとたくさんの星が瞬いている。

「そういえば、世界樹の森に住む聖霊様が通ると銀色の光が残って、流れ星みたいに見えるって本当?」

星空を見上げていると、レイニィが問うた。

「うん。本当だよ。僕は一度だけ見たことがある」

凄く綺麗だった。兄さんと一緒に見たんだけど、兄さんも言葉を失っていたもの。

「見て! あそこに城がある。行ってみよう!」

ミンディは、今度はキラキラと光る大きな城を指差した。月明かりが城を照らしていて、凄く幻想的に見える。


僕たちは城までに行く道で城下町っていうのかな? そんな感じの所を通った。
でも、誰も外にはいなかった。家から光が漏れているから中にはいるみたいなんだけど。

「あの口髭おじさんの話だと、雨に混じってキラキラしたものが降るのを見たって言ってたよね。でも、それが心の雫とは限らないし、心の雫だとしても心の雫がどんな形でどんな色をしているのかもわからないし……」

レイニィは、首からさげている雨の雫を見た。雨の雫は最初に見せてもらった時と同じ薄水色だ。

「雨の雫は心の雫が近くにあると、一体どんな色になるんだろう?」

レイニィは、雨の雫をそう言いながら首から外した。そのとき、急にレイニィの手の中から雨の雫が消えた。

「え? あれ?」

一瞬で、しかも急な出来事だったから、僕たちにもレイニィにも何が起きたのかよくわからなかった。
キョロキョロと周りを見てみると、走って行く背の低い男の子の姿が見えた。

「あ! あいつ、雨の雫を持ってる!!」

ミンディはよく見えるように目を細めた。僕も同じようにして男の子を見たら、男の子の右手にはしっかりと雨の雫が握られている。
僕たちはあの男の子に雨の雫が盗まれたのだと理解した。

「追いかけよう!」

レイニィはそう言うと、もの凄いスピードで走りだした。ミンディも、筆に乗って男の子を追いかけた。
僕も走ったんだけど、出遅れたし、しかも足が遅いから中々追いつけない。
男の子は凄いスピードで走っているレイニィから逃げられるほど足が速かった。

「待てー!!」

レイニィは、さらにスピードを上げた。ミンディもスピードを上げ、二人はみるみるうちに男の子に追いつき、二人で挟み打ちをかけた。
男の子は挟まれてない横から逃げようとしたけど、レイニィがそこを取り押さえた。
このとき、僕はやっと二人に追い付いた。
僕は息がきれ、脇腹とか痛くて苦しかったけど、同じ走っているでもレイニィも男の子も平気そうにしていて、ちょっと悔しくなった。

ここの最近、運動不足だったからなぁ。これからは、ちゃんと運動しよう。

「ちょっと、あんた! 私の雨の雫返えしなさい!! それは、値打ちがあるものじゃないよ!」

レイニィは、そう言い男の子の手から雨の雫をひったくった。にしても、レイニィ凄い気迫だな。
男の子はくるくるっとした茶色い髪で、僕たちより、少しだけ年下に見えた。

「ちょっと! 聞いてるの!?」

男の子はずっと下を向いている。前髪が長く、下を向いているから男の子がどんな表情をしているのかわからない。
レイニィは凄く怒っているけど。

「お前、人の物は盗んじゃダメなんだぞ。例え、何があっても」

ミンディはレイニィとは対照的で優しく言った。その間も男の子はずっと下を向いている。

「この子、城に連れて行こう。何も言わないし、今から行くんだからちょうどいいよ」

レイニィは凄く怒っている。ここで、それはやめた方がとか反対したら、もしかしたら僕たちは八つ当たりを受けるかもしれない。
でも、僕が何かを言う前に男の子が、はっとして顔をあげた。

「それはダメ! レックスには、王子には言わないで!!」

男の子は宝石のような緑色の目をしていた。

「お願いします! 謝りますから……」

男の子はまた下を向いた。僕たち三人は顔を見合わせた。

「あんた、名前は? 何で盗んだの?」

レイニィは相変わらず怒ってはいるけど、さっきよりは怒っていないみたいだ。
でも、この男の子の返答次第ではもっと怒りだすこともあり得るから気をつけないと。

「コカブと言います。お願いだから、言わないで!」
「あんたの返答次第だね」

コカブと名乗った男の子はレイニィの気迫とか迫力とかにおされて、今にも泣きそうだ。
僕はちょっとコカブが気のどくになった。

「僕にも、よくわからないんです。青い石を持っている人がいたら、その石を持ってこいって言われて……」
「誰に?」
「それが、よくわからなくて。男の人でした」

僕たち三人はコカブの話を聞き、また顔を見合わせた。

「もしかして、心の雫を狙っている人がいる?」

ミンディは眉をよせた。

「でも、誰に? 何で?」

レイニィは首をかしげた。僕たちはまた顔を見合わせた。

「でも、青い石だけで決めつけちゃダメだよ。青い石って意外とあるし」

僕はチラリとコカブを見ながら言った。コカブはすっかり怯えてしまっている。
青い石っていうのは、いくつかあると思う。と、いうか水系の石は全部青い石だ。それに、青い宝石だっていくつかある。
それぞれ形は違うけど、石みたいにみえるし。だから、心の雫を盗もうとしている人がいるかどうか決めるのはまだ早い気がする。
情報も少ないし。

「確かにそうだね。この雨の雫だって知らない人からみたら青い系の石だもんね」

レイニィは雨の雫を首にかけた。コカブはその動きをじっと見ていたけど、また下を向いた。

「取りあえず、城に行こう。何か知っているかもしれない」

ミンディがそう言うと、コカブははっと顔をあげた。
きっと、コカブのことも言われるんだと思ったんだろう。ミンディはその視線に気づいた。

「別にお前のことを言うためじゃないよ。聞きたいこともあるし」
「私は言いたいけどね。そもそも、青い石がどうのって言われたからって盗むのは間違っている。親にそう教えられなかったの?」

ミンディが慰めるように言ったあと、すぐにレイニィが冷たく言い放った。レイニィも結構キツイなぁ。
コカブは大きな目に涙が溢れていた。でも、レイニィの言ってることは正しいから、僕もミンディも何も言えなかった。

「とにかく、城に行くよ!」

レイニィは、そう言いキラキラと輝く城を目指して歩き始めた。僕たちもそれに従ったけど、コカブはついてこなかった。



BACK|モドル|>>NEXT