雫と虹
夜の方向っていうのは、月が昇る方向のこと。つまり、太陽が昇る方と同じで、東ってこと。
僕たちは東の方に向かった。星空の国に行く時も夕暮れの街に来たときのように視界が変わったりするのかな。
「そう。フィリカは世界樹の森の人なんだ。森の人は初めて見たなー」
僕はレイニィに森のこととか、聖霊様のこと、セージ兄さんのことを話した。
レイニィが言うには僕たちは珍しいらしい。何より、森自体が特殊なんだって。よくわからないけど。
「世界樹の森からは、行き方さえ知っていればどこの世界にも行けるんだよ。雨の国からは夕暮れの街には歩いて行けないから雨にのって来たんだ。そういえば二人は知ってる? 太陽の国、雨の国を含めたこの近辺は自然界っていうらしいよ。たくさんある世界の一つらしいね。他にどんな世界があるのかは知らないけど。その中でも世界樹の森はたくさんある世界の中心にあるんだって」
レイニィは意外とおしゃべりで、物知り。これには、僕もミンディも驚いた。
もっと、大人しい子かと思ってたんだ。それからも、レイニィは色々な話をしていた。
とにかく、僕とミンディが口を挟む余裕もないくらいにしゃべり続けた。
「ん? 何だか少し暗くなってないか?」
ミンディがやっとのことで口を挟んだ。レイニィは嫌な顔はしなかったけど、またしゃべり始めた。
「そう言えば聞いたことある。星空の国に近づくと空が暗くなるって。さっき、世界樹の森はどこにでも繋がっているっていったけど、森以外にも行ける所はあるんだって。夕暮れの街と星空の国がいい例だね」
確かに、レイニィの言うとおり夜の方向に向かうにつれて空は暗くなっていった。それと同時に空に星が出ている気がする。
そういえば、結構歩いたのにレイニィのおしゃべりのお陰でそんなに長い間歩いてると感じなかったな。
「にしても、夕暮れの街は綺麗だったね。私んとこなんて、いつも雨だから少し新鮮だったかな。夕暮れを見たのも初めてだったし」
星空の国に着くまでレイニィはずっとしゃべっているのかと思った。だけど、それは思った通りだった。
夕暮れの街を出てから結構たっていると思う。日が落ちるのは早いっていうけど、僕たちはいつのまにか真っ暗な所を歩いていた。
真っ暗で回りが見えない。しかも、何か少し空間が歪んでいるような気がするけど、気のせいかな?
「何か嫌な感じの所にでちゃったなぁ」
ミンディの声がした。どこにいるのかはわからないけど、近くにいるみたい。
真っ暗でミンディとレイニィがどこにいるのかもわからない。
「二人も近くにいるの?」
僕は手探りで二人を探した。
「あいたっ! ちょっと、フィリカ!足踏まないで!」
「あっ! ごめん、ごめんね!」
僕はどうやらレイニィの足を踏んだらしい。暗くて何も見えないけど、足をどかした。
「一体何だってんだ?」
ミンディがそう呟くのが聞こえた。
「取りあえず、はぐれないように手を繋ごう」
僕たちはミンディの言うとおり、お互いの手を探した。
暗いのに慣れてきたのか、なんとか二人の姿がうっすらだけど見えるようになり、僕たちは手を繋いだ。
女の子と手を繋ぐのは初めてだったから、ちょっと恥ずかしくなった。
「そういえば、私聞いたことがある。周りが真っ暗になったら気をつけなさい。夜の国が近くにあるからだって」
「「夜の国??」」
僕とミンディの声がハモった。
「うん。夜の国。迷いこんだら最悪なことになるって。そこに住んでいる住人も変な人たちばっかりだから、絶対行かない方がいいって」
聞かなきゃ良かった。僕は、そう思った。だって、急に怖くなって来たんだ。
「と、とにかく進もう」
ミンディの声だ。表情は暗くてよく見えなかったけど、ミンディも怖がっているみたいだ。
「そうだね。早く行こう」
二人が頷いたような感じがした。とにかく僕たちは進むことにした。早く、この怖いところから出たかった。
歩いていると、だんだんと月明かりが見えてきた。どうやらあの暗いところを抜け出せたみたい。僕たちは繋いでいた手を離した。
「あ! 見て!」
ミンディが星空の下、何かを指差した。
ミンディの指差した先にはアーチ形の門みたいのがあって、看板に光る文字で星空の国と書いてある。
「ここが、星空の国」
どのくらい歩いていたのかはわからない。だって、誰も時計を持っていないんだもの。
でも、ずっと歩いていたから足が痛い。それに、ちょっと眠くなってきた。
夕暮れの街には、夕方についたからきっと、もう夜なんだと思う。
「取りあえず、行ってみよう」
ミンディが先頭をきった。僕たちもそれに続いた。
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