雫と虹


夕暮れの街は凄く綺麗だ。色々な物が夕暮れ色に染まっている。
街の人たちも凄くいい笑顔! あそこで、立ち話しているおばさんたちもいい笑顔! 素敵な街だ。

「僕、この街気にいっちゃった」

僕とミンディは街の中を散策した。
広いとは言えない街だけど、森から出ようと思ってなかった僕には凄く新鮮。兄さんにも見せてあげたいなぁ。そう、考えていると、頭にポツンと水滴のようなものを感じだ。

「あれ? 今、水滴のようなものが……」
「水滴? 雨か?」

僕とミンディは不思議そうに空を見上げた。見上げた先には雨雲何かなく、綺麗な夕暮れの空だ。
気のせいだったのかもしれない。でも、気のせいではなかったんだ。綺麗な夕暮れの空から、スコールのような雨が降ってきたんだ!

「雨だ! やっぱり、雨だったんだ!」

ミンディは嬉しそうな声をあげた。

「ミンディ! 屋根のある所にいかないと、濡れちゃうよ!」

僕は空を仰いで、まるで恵の雨だと言わんばかりにはしゃいでいるミンディをひっぱり、屋根のある所に行った。どこかの店先だ。でも、雨はすぐにやんだ。

「あれ? もう、やんだの? 天気雨か?」

ミンディは、すぐに屋根の下から出て、また空を見た。
街を見渡すと、慌てて洗濯物を取り込もうとしている人とか、持っている鞄を傘代わりにしている人が目に入った。

「ん? あれ? あんな子いたっけ?」

ミンディは噴水の方を見ていた。僕もミンディの見ている方を見た。
そこには、さっきまでいなかったのに、青い髪をポニーテールにして、水玉の傘を持った女の子が立っていた。
女の子は、その傘を折り畳み、鞄の中にしまっていた。

「ううん、雨が降る前はいなかった」

ミンディはあの子のことを言っているんだろう。
にしても、本当に、あの子はいつからあそこにいたんだ? 僕たちは、さっき噴水の近くまで行ったけど、その時にはあんな子はいなかった。それとも、僕たちが気づかなかっただけなのだろうか?
女の子は僕たちの視線に気づき、こっちを見た。凄く目の綺麗な女の子だと思った。まるで、宝石のサファイヤか何かで作られたみたいだ。

「お、おい。あの子、こっちに来るぞ」

僕は女の子の目に魅いってたみたい。ミンディの焦る声で女の子がこっちに来るのに気づいた。目だけじゃない。女の子は髪もキラキラしていて綺麗だ。ミンディはそのことに気づいてないのかな?

「君たちは、この街の人?」

女の子はついに、僕たちの所にやってきた。ミンディと同い年くらいかな? それとも、僕と同い年かな? ちょっと、わからなかった。

「いや、俺たちは違う。君はいつからそこにいたの?」

ミンディは女の子にそう言った。女の子は僕とミンディを交互に見ている。

「私はさっき来たの。雨の国のレイニィだよ。君たちは?」
「え? 雨の国?」

ミンディはレイニィと名乗った女の子の言葉に反応を示した。

「俺は太陽の国のミンディ。雨が降らないせいで、虹が作れず太陽の国に帰れないんだ。雨を降らせているのは雨の国だろ? 何で、雨が降らなくなったんだ?」

ミンディは真剣だ。あぁ、そうか。ミンディを太陽の国に送るのが僕のやることだったっけ。ミンディが一人で行くのは寂しいから一緒に行ってあげてって聖霊様に言われたんだった。
レイニィは暫く黙っていた。僕はミンディが何か言うかと思った。でも、何も言わずにレイニィが話してくれるのを待った。だから、僕も何も言わずに待つことにした。レイニィが話してくれるのを。

「……心の雫が砕けちゃったの」

レイニィは、話してくれた。

「雨の国には、雨を司る姫様がいるの。その、姫様の心の雫が粉々に砕けて、飛び散ってしまったんだ。姫様は、心の雫……つまり、心をなくして、眠っているの。それで、私たちの国に雨が降らなくなってしまった。それで、雨が降らなくなってから、誰が心の雫を探しに行くかの試験をして私が選ばれたの。さっきの雨は、国を出る時に貰った雨の結晶のカケラで降らせたものだけど、そのカケラは一度しか使えないから消えちゃったし……」

レイニィは少し悲しそうだった。
僕はもちろん、雨の国何かに行ったことないから、どうやって雨を降らせているのかは知らないけど、きっとその雨の姫様が降らしていることはわかった。

「何で心をなくしたぐらいで、雨が降らなくなるんだ? 大体、雨の国はどうやって雨を降らしているんだ?」

ミンディはレイニィに問うた。そして、続けた。

「俺たちは、水滴と光で虹を描くけど、雨はどうやって作っているんだ?」
「雨は雨の結晶を持っている人じゃないと降らせられないの。さっきのは、カケラで、姫じゃない私が使ったから使い捨てみたいなものだけど、姫様が持つと何回も使えるの。それに、雨は姫様の心に影響されるの。たとえば、どしゃぶりの時は姫様が怒って、ストレスと発散させているとかね。太陽の国にも太陽を司る人がいるでしょ?」
「うん。いるよ。王様のことでしょ? いつも、光ってるよ。その光が太陽になるんだ」
「それと同じようなもの。うちは、姫様が降らせた雨を浴びて大きくなる雨の花っていうのがあるんだけど、雨の花は大きくなると、その葉を家にして、花は種を飛ばすの。それが雲にくっつくと、雨雲になって、他の国に雨を降らせるんだよ。でも、姫様が眠りについた今じゃ、雨の花も種を出さなくなったし……」

ミンディとレイニィはその後も暫く話していた。何か、ちょっと仲間外れにされてみたいで複雑。僕だって会話に入りたい。だから、二人の邪魔をすることにした。

「つまり、レイニィは雨の姫の心である心の雫を探しているってこと?」

ってね。ほら、僕が会話に入ったことで、ミンディとレイニィは僕の方を見た。仲間外れではなくなったけど、今度は注目されているみたいで、ちょっと嫌だなぁ。

「うん。でも、どこに砕けちったのかわからないから、こうして夕暮れの街に来たんだ」

レイニィは情報を集めないとなと、呟いた。
そういえば、聖霊様が夕暮れの街に行けば、雨が降らない原因が解るかもって言ってたけど、このことだったのかな?

「あ! でも、心の雫が近くになると、この雨の雫の色が変わるんだ。でも、今までにそんなことなかったから、どんな色になるかはわからないんだけど」

レイニィは首から下げている薄水色の石のような水晶のようなものを見せてくれた。雫というだけあって、雫の形をしている。

「あ! おじさん! ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

雨がやんだから、噴水広場(僕が勝手にそう言っているだけで、本当の名前は知らない)にたくさんの人が集まってきた。
そこには、さっきの口髭おじさんもいた。そのおじさんにミンディが声をかけた。

「ん? さっきの子たちじゃないか。さっき、雨が急に降ってきたから驚いたよ。それより、どうしたんだい?」

口髭のおじさんは、僕たちの事を覚えていてくれた。まぁ、そんなに時間もたってないし、覚えているのは当たり前か。

「この女の子が心の雫っていうのを探しているんだけど、何か、そんな感じの見たことない?」
「心の雫?」

口髭おじさんは心の雫という単語に反応した。もしかして、知っているのかな? おじさんは続けた。

「さぁ…。よくわからないけど。でも、確か、最後に雨が降った日に、何か光るものをその雨の中で見た気がする。確か、あれは……星空の国の方に落ちて行ったと思うよ。雨の日に流れ星かとおもって、びっくりしたんだけど……。おっと、いかん。早く家に帰らなければ」

口髭のおじさんは、そこまで言うといそいそとどこかへ行ってしまった。何かあったのかな?

「星空の国っていうと、夜の方向にある国だよね? 行ってみる価値はあるかもしれないね」

レイニィは考えこみながらそう言った。ミンディもうんうんと頷いた。
もしかして、もしかしなくてもその星空の国っていう所に行くのかなぁ。行く気満々だし。

「夜の方向ってことは、夜が来る方向か。その心の雫が手に入らないとずっと雨は降らないし、俺もいっちょ手伝ってやるよ。雨が降らないと仕事がなくなっちゃうし。フィリかも行くだろ?」

ミンディは行く気満々で僕の方を向いた。僕は、あんまり気が進まないけど。だって、ミンディが一人で寂しいだろうからって来たのにもう一人じゃないし、確かに夕暮れの街は綺麗で外も楽しいけど、できれば早く森に帰りたかった。でも、帰り道もわからないし……。

「うん、一緒に行くよ」

そう言うしかなかった。ミンディの笑顔が一緒に来るのを前提に考えている笑顔だったし。
僕たちは、夕暮れの街を後にし、夜の方向へと向かった。赤くて綺麗な街。とりあえず、来てよかったかな。



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