雫と虹


城の中は外と同じく凄く綺麗だ。でも、凄く静か。僕たちはコカブのお陰で、すぐに王子様がいる謁見の間って所に行くことができた。
あぁ、そうか。王子様とかの方が事情を知っているから王子様の所に連れて行ってくれるのか。
てか、ミンディとレイニィは始めからそのつもりだったのかも。

「王子はここにいると思います」

コカブはそう言い、ドアをノックした。随分立派なドアだなぁ。
ノックしても誰の返事も聞こえてこなかったけど、コカブは気にせずに部屋の中に入って行った。僕たちも後に続いた。
中に入ると、謁見の間は広くてたくさんの人がいる。今までコカブ以外の人を見なかったけど、皆ここに居たのかな? 
にしても、皆結構着飾ってる。

「何か、見られてるんだけど……」

ミンディが周りの目を気にしながら言った。確かに、ここまで皆から見られていると嫌だ。
ほら、よくさ、学校の教室とかでドアを開けると皆がこっち見るときあるじゃない? それと同じ感じ。
でも、何で皆が見てるかっていうと、僕たちが場違いだから見ているんだと思う。
取りあえず周りの人たちは僕たちに注目し終えると、僕たちのことなんかなかったように気にせずおしゃべりを始めた。
でも、一人だけ身なりのいい男の子がこっちにやってきた。

「コカブ? どうしたの? それに、その人たちは……」

男の子は金髪に金の目をして、頭には冠をかぶっている。
もしかして、この子がコカブの言ってた王子様? コカブと同い年くらいだし、こうしてコカブのとこにきたってことはその可能性が高い。
ふと、レイニィの首から下げている雨の雫が気になったから見てみたら、雨の雫の色が薄水色から青色に変わっていた!

「レイニィ! 雨の雫の色が変わっているよ!」
「え!? 本当!?」

レイニィは急いで雨の雫を見た。やっぱり、青色になっているよね。

「この辺に心の雫があるってことか?」

ミンディがキョロキョロとあたりを見渡した。僕も見てみたけど、たくさんの人と美味しそうな食事だけしか見当たらなかった。
何だか、お腹がすいてきたなぁ。

「君たちは誰なんだい? この国に一体何の用だ?」

王子様は少し、警戒している。そりゃ、見ず知らずの人がいたら誰だって警戒するよね。
少なくとも僕だったら警戒するけど。でも、ミンディに対しては警戒しなかったなぁ。

「彼はこの国の王子のレックス……レグルス王子だよ。それで、この人たちは……」
「俺はミンディ。女の子がレイニィ、こっちがフィリカ」

コカブの言葉を引き継ぐようにミンディが言った。レグルス王子は僕たちがコカブの知り合いっていうのがわかると、少し警戒をといた。
何だかとっても、周囲が騒がしい。皆楽しそうに笑っているから、パーティか何かなんだろう。

「そのミンディ、レイニィ、フィリカがこの星空の国に一体何の用だ? コカブがここまで連れてきたってことは、 国に害をなすものではなさそうだが」

レグルス王子は僕たち三人のことをジロジロと見た。僕は少し嫌な気分になった。こんな風に人をジロジロ見ることは失礼だと思う。
兄さんもそう言ってたし。

「一つ聞きたいことがあるの。この国も雨は降らなくなってる?」

レイニィは真剣だった。心の雫は間違いなくこの国にあるってわかったからかもしれないけど、とにかく真剣だった。
やっぱり、コカブに青い系の石の話をした人は心の雫を狙っているのかな? 
ここに、心の雫があるって知っていたんならその可能性はあり得るよね。心の雫が何色なのかはわからないんだけどね。

「雨か? そういえば、ここ何カ月かまったく降っていないな。 だが、この国では雨が降ると雲が星空を覆ってしまうから、不吉なことと言われているんだ。 そもそも、あまり雨の降る地方ではないからそのようなことが言われるようになったと思うんだが」

レグルス王子は何でそんな質問をするんだという感じで、レイニィに言った。そうか、ここの国、あまり雨は降らないのか。
まぁ、星空の国なんだし、そりゃそうか。星空がいつも見えなかったら星空の国とは言えないし。

「あんた、心の雫って知ってる?」

レイニィは、ついに単刀直入に聞いた。雨の雫は相変わらず青色で、少し光っているようにも見えた。
僕は、コカブとレグルス王子をチラリと見たけど、さっきと同じ表情で何を考えているのかわからなかった。

「心の雫? 何だ、それは。どんな色でどんな形をしているのだ?雫というくらいだから青色か? コカブはわかるか?」
「ううん、聞いたこともないよ」

コカブはレグルス王子の問いに、首を横に振って答えた。この表情は確かに、わからないとか知らないって時に見せる表情だ。
でも、心の雫は知らなくても、言い方を変えればどうだろう? 例えば、青い石とかね。

「青い石……」

僕はいつのまにか、そう呟いていた。自然と口にでたって感じだ。でも、その一つの単語でレグルス王子とコカブの表情が変わった。
コカブの表情はさっきのことを言ってしまうんではないかって不安そうにしている表情だ。
レグルス王子の表情は、はっとしたときにする表情みたいな感じ。

「青い石のこと、何か知っているのか? あの男のことも」

レグルス王子はそのはっとした表情のあと、少し不機嫌になった。きっと、青い石で何かがあったんだろう。僕はそう思った。
ミンディもレイニィもそう思ったに違いない。だから、僕たちは三人揃ってレグルス王子の次の言葉を待った。

「ここ最近ではないが、変な男が青い石のことについて話していたんだ。何て言っていたかはよく覚えてはいないが、 もし誰かがその青い石を持っていたら持ってこいと言っていた気がするよ。それは盗みに入るから、 私も父もそんなことはするなと言ったのだが、男が何かお礼をすると言ったのだろう。 この間、城の者が青い物……つまり、青い星なのだか、それを持って姿をくらましたんだ」

レグルス王子は少し腹を立てているようにもみえた。コカブが言わないでって言ったのは、レグルス王子が反対し禁止したからなんだ。
この二人の関係は友達とかぐらいにしかわからないけど、ただの友達じゃないと思う。
もっと、こう身分を超えた親友みたいな関係だと思うんだ。だから、コカブは言わないでって言ったんだ。
親友をがっかりさせたくなかったから。
だって、レグルス王子はけしからんって顔をしているけど、コカブはその目を見ないように下を向いちゃったもの。

「その男の人はどんな人だったの?」

レイニィはレグルス王子に問うた。謁見の間に居た人たちがチラホラといなくなりはじめた。

「確か、口髭を生やしている男だ。どこの国の者かは知らないが」

レグルス王子は思い出しながら言った。コカブは相変わらず下を向いている。

「口髭を生やした男。それだけじゃ、わからないな。そんな人はたくさんいるし」

ミンディの言う通りだ。口髭を生やしている男の人なんて、たくさんいる。夕暮れの街で遭ったおじさんだって、口髭を生やしていた。
そういえば、僕の親戚のおじさんも口髭を生やしていた。ほら、僕の少ないネットワークで二人も見つかった。
これじゃあ、情報が少なすぎるよ。
話していると、いつのまにか、周りの人たちがいなくなっていた。何人かはレグルス王子に挨拶をして部屋から出て行った。
今、この謁見の間にいるのは僕たちだけだ。

「む。もう月が沈んだか。男や青い石については、明日話してやろう。 コカブも旅人たちも、今日はこの星空の城に泊まっていくといい。部屋は二階の部屋が空いている。 空いている部屋ならどこを使っても構わん」

周りの人たちがいなくなると、レグルス王子はそう言い残し、去っていった。僕たちはポツンと残された。

「ここは、もしかして月が太陽の代わりなのかい? 月なんて初めてみたけど」

ミンディがコカブに問うた。僕は、近くにあった窓から空を見てみたけど、確かにそこには月はなく、星たちだけが瞬いている。
僕の住んでいる森は木で覆われているから、空もここまで見れないから何か不思議。

「うん! そうだよ、ここでは月が沈むと夜になるんだ。それより、ついて来て。案内するよ」

コカブは僕たちの先頭に立ち、部屋を出た。コカブがいつのまにか僕たちに敬語じゃなくなってる。
僕たちもコカブに続いて部屋を出た。そういえば、雨の雫はどうなったんだろう? 僕はちょっと気になったから見てみた。

「あ! レイニィ! 雨の雫の色が元に戻ってるよ!」
「え!?」

レイニィは僕の声で慌てて雨の雫を見た。雨の雫は薄水色に戻っていた。

「ってことは、さっきの部屋にあるのか? それか、あそこにいた人が持っているかだな」

ミンディの言う通りだと思う。でも、僕は人が持っていると思う。それに……。

「部屋だったら今確認できるよ。誰もいないもの」

今は僕たちしかいない。部屋を出たけど、誰か部屋に入ったのを見てないし。
レイニィはコクンと頷き、出たばかりの部屋に一人で入った。
コカブは僕たちが何かやっていることに気づき、何も言わずに待っててくれた。

「どう?」
「駄目みたい。場所ではなく、人ってことみたい」

雨の雫の色は変わらなかった。でも、この部屋に入ったらさっきは変わった。
今とさっきの違いは人がいるかいないかだ。レイニィは少し残念そうにしていたけど、一つ手がかりをつかむことができた。
心の雫はこの国にあって、さっきまでここでパーティをしていた人が持っているんだ。

「コカブ、今日は何の集まりだったの?」

レイニィは僕たちの所に戻ってくるなり、コカブに問うた。コカブは少し考えていた。

「多分だけど、舞踏会か何かだと思う。服装が皆ドレスだったし踊っている人もいたでしょう?」

コカブは多分だけどって付け足した。そういえば、女の人はドレスだったね。
踊るっていうのはそこまで気にしてみて見てなかったからわからないけど、音楽はなってた気がするよ。
といっても、僕は舞踏会っていうのがよくわからないんだけど。

「そうかぁ。それだと、探すの大変だな。明日にでも、レグルス王子に聞いてみるか」

僕もレイニィもミンディのその案に賛成した。僕たちはコカブの案内で食堂と二階に行き、ご飯を食べて眠ることにした。
ご飯は何か星型のお菓子とかがあった。
もちろん、兄さんがリュックサックに入れておいてくれたパジャマに着替え、寝る前に兄さんへと僕との健康と幸せを聖霊様に祈るのを忘れない。
ミンディとレイニィの部屋がどうなっているかは、わからないけど、僕の部屋はろうそくを消すと、天井に星空が現れ、まるで本物の星空の下で寝ている気分になった。
どんな仕掛けかはわからないけど綺麗だった。もちろん、窓からも満天の星空が見えて綺麗。あの箒星も見えた。    



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