雫と虹


城の近くまで来ると、人がたくさんいた。
昨日来た時は一人もいなかったのに。

「きっと、レックスを探しているんだ」

箒星に乗って、空を飛ぶ人たちを見て、コカブが言った。あの箒星、乗ることが出来たんだ。
たくさんの人が箒星に乗って、キョロキョロと見まわしている。
そのうちの一人が僕たちの方に気付き、僕たちもその人に気付き、目があった。
その人は、そのままこっちに向かってきた。

「皆、逃げろー!!!」

レグルス王子の声で、僕たちはその場から逃げだした。
さっきまで、僕たちがいた所は、もの凄い音がして、まるで隕石が落ちたかのように地面がへこんだ。
箒星が、落ちたんだと思う。

「レグルス王子!!」

そのへこんだ所から、箒星に乗っていた男の人が出てきた。
箒星が落ちた衝撃で、土煙がまっていたけど、男の人は、箒星に乗ったままで、僕たちの方に方向を変えた。
何で、さっき箒星は落ちたのに、この男の人も箒星も無事なの!? 僕はそんなことを考えながら、走っていた。

「わー!! あの人、落ちたのにまだ追ってくるー!!」

ミンディがびっくりしたのか、そう大声をあげた。

「箒星は、一回落ちただけじゃ、死なないんだよ。 それに、箒星に乗ってる人が向きをこっちに変えたんだ。箒星はまっすぐにしか進めないから。 後、あの人は落ちる前に、箒星から降りたんだよ!」

レグルス王子は、こんな状況でも説明してくれた。

「レグルス王子! もう逃がしません!!」

僕たちは、いつのまにか挟み撃ちされた。
ここが、もし森だったら僕は逃げ切る自信があったのに。ここじゃ、空から丸見えだ。
箒星に乗っていた人たちは、箒星から降り、箒星をまるで馬がどこかにいかないようにするために、紐で縛りつけ、 先に進まないようにさせた。僕たちはジリジリと追い詰められた。後ろからも、前からも、横からも。
しかも、相手は武器を持って、僕たちを追い詰めていく。

「レグルス王子はこちらへ」

僕たちを囲んでる中のリーダーみたいな男の人が言った。
この人だけ、帽子の色が他の人たちとは違う。レグルス王子は応じなかった。

「父様に会わせろ。父様は今どこにいるんだ」
「王様は最上階にいらっしゃいます。後で、連れて行ってあげましょう」

男の人はにっこりと笑った。
何だかうさんくさい笑顔だな、と僕は思った。すくなくとも僕はそう思ったんだ。

「ミンディ。あんたの筆、私たちを乗せて飛べる?」
「さぁ、わからない。やったことないから」
「なら、やって。最上階に飛ぶよ」

レイニィとミンディが周りの人に聞こえないように、コソコソと話している。
コカブとレグルス王子は耳を澄ませて、その話を聞いているみたいで、ミンディの背から降ろされた筆を全員で掴んだ。

「レグルス王子。あなたはこの国を導くものです。下々のものたちと一緒にいてはいけませんよ。また、王に怒られますよ」
「僕は父様のようにはならない! 父様のように、変わったりはしない!!」

レグルス王子が男にそう言い放った瞬間、ミンディの筆は飛んだ。
ミンディの筆はびゅんと最上階へと飛んだ。本当にあっという間だった。
皆筆に跨らず、掴んでいる状態だったってのに誰も落ちなかったのは奇跡だと思う。
まぁ、僕が落ちなかったから皆には楽勝だったのかも。

「案外できるもんだな」

最上階……屋上かな? 
そこにつき、僕たちは、ミンディの筆から手を離し、ミンディはいつものように筆を背負った。

「王様はどこにいるの?」
レイニィがキョロキョロと王様を探した。

「多分、あのドアの向こうにいると思う」

レグルス王子が、この屋上に唯一あるドアを指差した。
きっと、あのドアの向こうが、部屋で、下の階に続いている階段とかある所なんだろう。

「早くしないとあいつらが来るよ」

レイニィは、先頭に立ち、王様がいると言われたドアをノックもせずに開けた。
ドアの向こうは、やっぱり思った通り、部屋みたいになっていて、レグルス王子が言ったように王様が居た。
部屋の中には、ドアがあった。ベッドもあった。しかも、誰かがそのベッドに寝ている。
王様は僕たちに気付いていたけど、僕たちの方を見ようとはせず、ベッドで寝ている人を見ていた。女の人だ。

「母様……?」

レグルス王子の呟く声が聞こえた。

「母様、母様なのっ!?」

レグルス王子はレイニィを押しのけ、ベッドで寝ている女の人に近寄った。
だけど、はっとして、途中までしか近づかなかった。
レグルス王子の話では、お母さんは死んじゃったんじゃなかったっけ? 
なのに、どうしてここで生きているの? 生きているなら、どうして、レグルス王子は知らなかったの? 
様々な疑問が僕の頭に浮かんだ。

「レグルス。それ以上は近づいてはだめだ。病がうつるかもしれないからね」

僕は王様を近くで見るのは初めてだったけど、レグルス王子たちが話していた人とは違う人のように見えた。
体が大きいから怖そうには見えるかもしれないけど、優しそうな感じもする。
僕は女の人をよく見ようと、目を細めた。
何か、よくわからないけど、女の人の体から緑色のものが生えているように見えた。

「何で、死んだなんて言ったの?」

レグルス王子は、王様の言うとおりそれ以上近寄らなかった。

「……。医師にいつ目覚めるかわからないと言われたからだよ。 だから、死んだことにした。ここ最近、乾燥が好きなカビが発見されたんだ。 王妃は、それにかかったものを食べ、感染してしまったんだ」

王様は悲しそうに、レグルス王子のお母さんの手を握った。
手からも緑色のものは生えていた。この緑色のものは、カビだったんだ。

「だからと言って、レグルス王子とコカブが遊んじゃいけないっていう理由はどこにもないじゃん!!」

レイニィが二人の会話に割り込んだ。
レグルス王子のお母さんの目は、堅く閉じられている。

「君たちは……。コカブも一緒か。君は他国の子だろ? 人の国のことに首を突っ込んでもらいたくない」

王様はレグスル王子のお母さん、つまり王妃様から目を離さずにレイニィに言った。

「ぼ、僕は!! レックスと一緒に遊んだりしたいです! だって、友達だからっ! お母さんもレックスとは 付き合うなって言ってたけど……。僕にはわからないです。どうして、レックスと遊んじゃいけないのか……」

今まで黙っていたコカブが震える声で言った。凄く緊張して、怯えている。
王様はやっと、王妃様から目を離し、僕たち……いや、コカブの方を見た。

「レグルスは世継ぎだ。遊んでばかりはいられないのだよ。 それに君は貧困層に住むものだ。レグルスに悪い影響を与える。 なにより、カビに感染しているものは貧困層の方が多いのだ。レグルスまで、 カビに感染してしまったら私はやっていけない」
「ちゃんと勉強もする! コカブの村では、 何も食べないから! 約束する!! だから、もう会っちゃだめだなんて、 言わないで……。コカブだけ、なんだ。本当の友達は。だから、会うなだなんて、言わないで!!」

レグスル王子は悲壮な声で叫んだ。



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