雫と虹

風がくる道は、どこよりも風がびゅんびゅんと吹いている。
僕たちは、その風に逆らって進んでいる。髪がちょっと邪魔だ。

「ん?」
「どうした、フィリカ?」

風に逆らって風の中を進んでいると、僕は奇妙な感覚に囚われた。
誰かに見られているような、そうでないような?

「何か、誰かに見られているような、見られていないような感じがするんだ」

自分でも、変なことを言っているのはわかってる。
僕は確かめるように周りをキョロキョロと見渡した。人の気配はしないんだよね。
だから、何かとっても不思議なんだ。うまく、説明できないや。

「もしかして、アレじゃない?」

レイニィは、僕が見られている感覚を感じている方を指差した。
その指の先には、何でかわからないけど、めざまし時計が浮いていた。
そういえば、キョロキョロとしているときに、チラっと視界に入ったような気がする。

「何でこんなとこに時計が浮いているんだ?」

ミンディは、追い風を受けて、時計の所に行った。

「ミンディ! 変に近寄らない方がいいよ!」

僕は、時計に触ろうとしているミンディに慌てて言った。
兄さんが、得体のしれないものには近寄らない、触らない方がいいって前に言っていたんだ。

「それもそうだ。早く、先に進もう」

ミンディは、僕の言うことを聞き、触るのをやめ、戻ってきてくれた。
僕たちは再びそよ風の村を目指した。星空の国からけっこう歩いたのかな? 
空には、星はなく、青い空(ちょっとだけだけどね。まだ、ちょっと暗いんだ。早朝とかそんな感じかな?)が広がってきていた。

「大分、明るくなってきたね」
「風も強くなってきたけどな」
「これじゃあ、中々前に進めないよ」

僕が空を見上げながら言うと、ミンディとレイニィが風に対して文句を言った。
確かにそうだ。星空の国を出てから大分、風が強くなってきている。気を抜けば飛ばされそう。
これが、強風っていうのかな? でも、風が強くなってるってことは、そよ風の村に近づいているってことだよね?
その証拠に、風の向こうに、微かだけど、村みたいのが見える。

「皆! 村が見える!! もうすぐそよ風の村に着くぞ!」

村はミンディにも見えていた。ミンディは僕たちの前に立ち、体の小さい僕と女の子のレイニィを強風から守ってくれた。
ちょっとカッコよかった。


 どのくらい歩いたんだろう? よくわからないけど、お腹が減ってきたから、お昼は過ぎてるんだと思う。
そんなとき、今まで吹いていた強風は、だんだんと強風ではなくなり、普通の風になった。
その風を抜けると、まるで風の壁を抜けたように無風になった。何だか不思議な感じ。

「あ! 見て! 村がいつのまにか、こんなに近くにあるよ!」

レイニィは、ミンディの横から首を出し、目の前に広がる村を見て驚いた。
もちろん、僕だって驚いた。だって、無風になったとたん、こんなに近くに村が見えたんだもの。
無風の所から村の方へ向かっていくと、今度は気持ち良いそよ風が吹いてきた。

「何か、天気もいいし、爽やかな気分」

ミンディは心地よいそよ風を全身に浴び、気持ち良さそうに目を細めた。
風だけじゃない。空もいつのまにか青空になって、太陽がジリジリとかじゃなく、気持ちよく僕たちを照らしている。

「見て! 風車とか、かざぐるまがたくさんあるよ!」

僕は村を見て、楽しい気分になった。
村には、大きな風車に小さな風車、それにかざぐるまが、花のように花壇に植わっていた。
そよ風の村では、あれが花なのかな? 僕もミンディと同じように全身に風を浴びた。
気持ちなぁって、思ってるとレイニィに服を引っ張られ、ちょっとだけイラっとした。
せっかく、風を浴びていたのに。ミンディも同じように思ったみたい。

「どうした?」

ミンディが、問うた。

「急にひっぱってごめんね。これ、色が変わってるの!」

レイニィは、僕たちに謝ったあと、押しつけるように雨の雫を見せた。

「本当だ」

確かに、レイニィの言った通り、青色になっていた。
星空の国にいたときと同じ色だ。

「とりあえず、村の中に入ってみようよ」

僕は雨の雫から目をそらし、二人の方を見た。
ミンディも、雨の雫から目を離し、コクンと頷き、僕たちはそよ風の村へと足を踏み入れた。

そよ風の村は、星空の国とも、森とも全然違っていた。
僕は見たことないんだけど、こんな感じの風景が、田舎の風景っていうんじゃないかな? それに、何かちょっと懐かしい感じ。

「この村は酪農で生活しているみたいだね」

レイニィは、村全体に広がる牧草地を見て言った。レイニィの言うとおり、村は白い柵で覆われていた。
動物たちの姿は見えないけど。あ、でも何かふわふわの綿毛みたいな鳥がいる。
あの鳥は野生のなのかな? それとも、飼われているのかな? 可愛いし触ってみたいな。
雨の雫はまだ青色のままだ。

「あ、あれ、かざぐるまじゃなくて、花だったんだ」

ミンディは花壇に植えてあるかざぐるまの所に行った。
僕もレイニィもミンディについて行った。近くでみるとよくわかる。
このかざぐるま、ミンディの言った通り、かざくるまじゃなくて、お花だ。
お花の匂いがするし、お花の手触りだもの。だけど、かざぐるまだから、風が吹くとくるくる回る。

「ん? あれ?」

赤いかざぐるまの、葉っぱに何かついているような気がする。
何か、キラキラした、雫のような。星空の国で見たガラスにそっくりだ。

「ねぇ、もしかして、これ心の雫じゃないかな?」

僕はそのキラキラしたガラスを拾い、レイニィに見せた。
星空の国でみたものより、大きかったから見つけられたのかもしれない。

「本当だ。星空の国で見たのとおんなじだし、雨の雫も……わっ!?」
「え!!?」

レイニィがガラスのカケラを覗き込むように、見るとカケラは僕の手から離れ、またレイニィの口の中に飛び込んだ。
ゴクンと飲み込む音がした。どうやら、レイニィは心の雫をまた飲み込んじゃったらしい。
雨の雫はもとの薄水色に戻っていた。

「もしかしたら、心の雫は心の雫に惹かれて、口の中に入ったんじゃないのかな? 星空の国のことは偶然かもしれないけど、 今回は偶然じゃない気がする。もとは一つだったんだから、ありえなくない話だろ?」

ミンディは、レイニィを見ながら言った。

「それは一理あるかも。でも、私の中に入って、どうやって姫様に返せばいいんだろう……」

レイニィは、そう言い腕を組み考え始めた。僕とミンディも考えた。
僕たちが考え込んでいると、あのふわふわの綿毛みたいな鳥たちが歌うような声で鳴き始めた。



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