雫と虹
初め、この国に来た印象は寂しい感じだった。全部白で、凄く静かだったし。静寂って感じだったんだ。
だけど、街中に入ると、雰囲気はガラリと変わった。キラキラしていて、凄く賑やかなんだ。
イルミネーションとかしてあって、夜になるとすごく綺麗になりそう。夜にもう一度来てみたいな。
僕、雪とか氷とかって寂しいイメージがあったけど、違うんだね。
「凄く賑やかだね。寒いのに、暖かいや」
レイニィが、嬉しそうに笑い、「クリスマスみたい。これで、サンタクロースでもいれば、本当にクリスマスね」と続けた。
本当にそうなんだ。さっきまでは、白って感じだったけど、赤とか緑って感じ。
家とかお店とかも、カラフルで可愛い感じで。木には、電球が巻かれていて、街の真ん中には、大きなもみの木がある。
「何か、楽しいねー」
ミンディは、元気を取り戻し、ウインドショッピングをしていた。
と、いってもミンディが見てるのは服とかじゃなくて、食べ物だけど。
食べ物を見ていたら、お腹がぐーってなった。だから、僕たちは、パン屋に入って、パンを買った。
僕たちが持っていたお金でも買えたから、ちょっと驚いた。街の人たちも、毛皮みたいな暖かい服を着ている。
僕たちは一通り街中を見て回ると、氷の城へと向かった。
「わぁ、スゴイ」
僕はお城の綺麗さに感動した。
城門から、お城の庭をのぞいてみると、雪だるまがあったり、氷の彫刻が置いてあったりした。
お城はやっぱり、クリスタルみたいな氷で出来ていて、所どころに雪が積もっていた。
相変わらず、はーってやると白い息がでた。
「ここも、星空の国と同じで門番とかいないんだね。って、普通に門があくんだけど」
僕たちは、城門を抜け、城の扉の所にきた。そんなとき、ミンディがそう言って、勝手に扉を開けた。
勝手に入っていいってことなのかな? でも、勝手に入ったら不法侵入にならないかな?
って、ミンディとレイニィはもう入っちゃってるよ!
「フィリカ、早くしないと置いていくよ」
「ま、待ってよ、レイニィ!」
危うく置いていかれる所だった。だから、ちょっと焦った。
だって、レイニィは本気っぽく言うんだもん。僕が、城の中に入ると僕の後で扉はバタンと閉まった。
城の中に入ると、ひんやりとした寒さはあったものの、外よりは寒くなかった。
明かりはないんだけど、雪とか氷がキラキラしていたから明かりがなくても、明るかった。まだ、昼ってこともあったけどね。
昨日の夜は、まだ雪が降ってなかったからわからなかったけど、聖霊様が、雪国は雪が白いから夜でも何か明るく見てるって言ってたっけ。
それに、この城にあるものすべてが氷だって気付いたときにはびっくりした。
座ったとき、お尻とか冷たくならないのかな? うーん、すぐトイレにいきたくなるような国だ。長いは出来ないな。
僕たちはひんやりとした長い廊下を歩き、姫たちが居るであろう謁見の間に向かった。
なんとなく、謁見の間はどこにあるかわかった。だって、この廊下の先に大きな扉が見えたんだもの。開いてたけどね。
「お前たち、何をしている?」
僕たちが謁見の間をのぞいていると、突然背後から声がした。
あまりに急だし、突然だから僕は飛びあがって驚いた。
「僕に、それともリッカに用か?」
振り返ると、僕と同じくらいの年頃の男の子がいた。
街の人たちが着ていた服より、何かちょっといい感じの服を着ているが、街の人たちと違ってコートとかは着ていない。
それに、ここにいるってことは城の人なのかな?
「僕は雪と氷の国の王子、ヒムロだ。君たちは誰だ? 見た感じ、女の子は雨の国の子だと思うが」
ヒムロと名乗った王子は、僕たちのことを観察しながら言い、何かを思い出したように、はっとした。
「雨の国の子がいるということは、心の雫を探しているのか。姉様の心の雫を」
そういえば、ミストラルさんたちが雪と氷の国の姫たちは雨の国の姫の妹たちだと教えてくれた。
だから、心の雫のことを知っているのか。それに、妹たちってことはもう一人いるのかな?
「あの! 私は、雨の国のレイニィと申します。ヒムロ王子はなぜ、姫様の心の雫が砕け散ったことを知っているのですか?」
レイニィは、ヒムロ王子に一歩近づき、力強く聞いた。
僕は、ヒムロ王子の目が横に泳ぐのを見逃さなかった。
「知っているといえば、知っているが……。その話は、リッカの方が詳しいだろう。会わせてやる、こっちだ」
ヒムロ王子は、そう言って僕たちを謁見の間に招き入れてくれた。
謁見の間には、王座っていうのかな? 豪華なイス(これも一つが氷で、一つが雪で出来ているみたい)の雪の方に、女の子が座っていた。
キラキラとしたドレスを着ていて、青白い髪に、雪の結晶の髪飾りをしている。
この子が、リッカ? そうか。雪と氷の国は一人の姫と、一人の王子がいるんだ。
「リッカ。雨の国の子が来た。姉様の心の雫が砕けた原因を知りたいそうだ」
ヒムロ王子は、王座に座っている肌の白い女の子にそう言った。リッカ姫は僕たちのことを見た。
「ピオッジャ姉様の話? 私も全部知っているわけではないけど、それでもいい?」
リッカ姫は、そうニッコリと笑いかけた。リッカ姫もコートをきていなかった。
レイニィは、コクンと頷いた。雨の姫様、ピオッジャっていう名前なんだ。初めて知ったなぁ。
「教えてください。姫様の心の雫はどうして砕けてしまったのですか?」
「それは、姉様は恋をしてしまったの」
「「恋!!?」」
レイニィとリッカ姫様が話していたのに、思わず僕とミンディが反応してしまった。
ちょっと、煩いって感じで、レイニィに睨まれたけど、びっくりしちゃったんだ。
だって、恋とか全然想像していなかったから。
「そう、恋。しかも、姉様は失恋したのよ」
「え!? 姫様が、失恋!?」
リッカ姫がため息をつきながらそう言うと、今度はレイニィが驚いた。
レイニィだって煩いじゃないか、って僕は思ったけど、言わなかった。
雨の姫様は、結構美人なのかな? リッカ姫はさらに続けた。
「そう、失恋。姉様は恋をしたの。どこかの国の王子にね。でも、それは叶わぬ恋だった。
それで、姉様の心の雫は砕け散ってしまったのよ。ここからは、私の推測だけど、姉様は片想いってわけじゃないと思う。
それに、姉様が恋した男性は、姉様のことを諦めていないと思うわ。雨の国の子が心の雫を探しているのは知っていたけど、
貴方たち以外にもいるみたいなの。心の雫を探している人が」
リッカ姫の話を聞き、僕はレグルス王子が話していたことを思い出した。
あの青い石の話。確信はないけど、コカブに青い石の話をしたのは、心の雫とは無関係ではない気がした。
「レイニィ、心の雫が砕け散って姫様は眠っているんだよね?」
僕はレイニィに問うた。レイニィはコクンと頷いた。
「でも、失恋で砕け散ったなんて知らなかったな。私が姫様に会ったのは、砕け散ったあとだし」
「もしかして、コカブとレグルス王子が言ってた口髭の男ってその男……姫様の失恋相手の命令で動いているんじゃないのか?」
「確かに。そうかもしれない」
ミンディとレイニィが話しているとき、今度はミストラスさんとマエストラーレさんが話していたことを考えていた。
マエストラーレさんは彼の言っていた通りと言っていた。
あの二人は、姫様が恋した王子か、口髭の人に会ったことがあるんだ。
それで、もしかしたら僕たちみたいに心の雫を探している人が来たらここに行けって言ってあったのかもしれない。
でも、そうとは限らないよね? もしかしたら、邪魔をしている人がいるのかもしれない。
だって、叶わぬ恋ってことは邪魔してた人がいるってことじゃないの?
「どうして、お姫様と王子様の恋は叶わぬ恋だったの?」
僕は皆に聞いた。僕も国に住んでいればわかったんだろうけど、僕は森の人だから。
皆は、僕の問いにびっくりしたようだった。
「どうしてって、そんなの常識だろ!? 姫と王子っていうのは、それぞれの国を司どってるんだよ。
だから、結ばれちゃいけないんだ。結ばれたら国も一緒になっちゃうから大抵の場合は叶わぬ恋なのさ」
ミンディが、そんなことも知らないのかという感じで言った。
僕は、今初めて知ったよ。でも、それって、コカブとレグルス王子と同じ感じだよね。
そんな差別的なことがあるから雨の姫の心の雫は砕けちゃったんだ。
「そういえば、心の雫は?」
ヒムロ王子が、レイニィに問うた。
きっと、見たいとかそんな感じなんだと思う。レイニィは困った顔をした。
「えっと、私の中にあります。ちょっと、誤って飲み込んじゃったんです」
「え? 飲み込んじゃったの?」
「本当に?」
ヒムロ王子とリッカ姫は、レイニィの回答に驚き、目が丸くなった。
レイニィがコクンと頷くのを見ると、二人は僕たちに聞こえないようにコソコソと話し始めた。
暫くして、二人は話すのを止め、僕たちの方を向いた。
「この国にも、心の雫は三つあるの。私とヒムロで探しておいたの。今、案内するわ」
リッカ姫は王座からぴょんと降り、僕たちの前に出て、ヒムロ王子と一緒に謁見の間を出た。
僕たちはそれについて行った。
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