雫と虹

二人について行くと、レイニィの雨の雫の色が段々と青色になっていくのに気付いた。
前を歩く二人には知らせなかったけど。二人は何かを話しながら、僕たちの少し前を歩いていたから。 何を話しているのかはわからなかった。
僕たちは二人について、まっすぐに伸びる氷の廊下を歩き、付きあたった所の階段を下りた。
ここは一階だから、どうやら心の雫は地下にあるみたいだね。地下ってことは、ずいぶんと厳重に管理しているのかな? なんてったって地下だしね。

地下にきたらちょっと寒くなった。
地下の床は、氷の床の上に雪が積もっていて、まるで雪のじゅうたんみたいにみえた。
歩くと、きゅっと音がして、少し楽しかった。雪は、森にもたまに降るから見たことあるけど、この音は好きだな。
二人はまっすぐ進んだ所にあった扉の前で止まった。

「心の雫はここにあるわ」

リッカ姫はそう言って、氷で出来た扉を開けた。
部屋はそんなに大きい部屋ではなく、氷のテーブルの上に箱があった。
ヒムロ王子が箱のふたを開けてくれて、中をのぞいてみると大きなガラスのカケラが二つ、小さなガラスのカケラが一つあった。

「レイニィの雨の雫が反応しているってことは、本物みたいだね」

ミンディが、レイニィの雨の雫を見ながら言った。
レイニィは、僕とミンディを見た。リッカ姫とヒムロ王子を見た。僕たちもレイニィを見た。
多分、皆同じことを思っているのかもしれない。レイニィは僕たちのことをもう一度見て、心の雫に近づいた。
僕には、相変わらず心の雫のことはよくわからないけど、レイニィが心の雫に近づくと、心の雫もレイニィの方に動いているようにみえた。

「あ!!!」

レイニィの声と同時に、心の雫がレイニィめがけて飛んだ。その後、ゴクンという音がした。
レイニィは僕たちに背を向けていて、何が起きたのかちゃんとはわからないけど、 そのゴクンでレイニィが心の雫をまた飲み込んでしまったことだけはわかった。
心の雫はまたレイニィの中に入ってしまったらしい。それは、振り向いたレイニィの表情から誰もが思ったことだ。

「本当に体の中に入っちゃったのか?」

ヒムロ王子が、信じられないという感じで問うた。
リッカ姫もヒムロ王子と同じような表情をしていた。

「勝手に口の中に飛び込んできたんです。ミンディとフィリカならわかるよね?」

レイニィの問いに、僕とミンディはコクンと頷いた。

「体は何ともないの?」

今度はリッカ姫がレイニィに問うた。

「はい。特になにもなく、いつも通りです」
「あ! でも、レイニィは雨を降らせられるようになったんですよ」
「まぁ、降らせられるっていうのかな。あれは。でも、前は出来なかったかな」
「え、雨を降らせられるの?」

レイニィとミンディの会話にヒムロ王子が割り込んだ。驚いている声だ。レイニィは、ヒムロ王子を見た。

「はい。星空の国で一度だけ。長い時間じゃないですけど、雨を降らせました」

僕はレイニィの言葉で星空の国での出来事と、兄さんの言葉を思い出していた。
昔、兄さんはその国の姫や王子・王や女王ない限り、天候を変えることは出来ないと言っていた。
そのときは、イマイチぴんとこなかったけど、今ならわかる。レイニィが雨を降らせたのはおかしいことなんだ。
だって、心の雫はレイニィの中にあるけど、レイニィは姫じゃないもん。
レイニィの言葉を聞き、ヒムロ王子もリッカ姫も黙りこんでしまった。何を考えていたかわからないけど、僕たちは地下を後にした。
どうでもいいけど、兄さんって結構物知りだったんだな。
その後、僕たちはヒムロ王子とリッカ姫の勧めで、今晩はこの国に滞在することになった。
暗くなってきていたし、お腹もすいていたから僕はすごく嬉しかった。暖かい料理が出てくれるといいなぁ。 冷たいものは嫌だと思って、ご飯を食べに行ったら暖かいスープが出てきた。
いくら、雪や氷の国といっても、国民の中までは氷じゃなかったんだ。こんなに寒いんだもの。 国民だって暖かいものを食べたくなるよね。
しかも、夜になったら寒さが増した。

「あ! 見て!! あれって、オーロラじゃないかな?」

廊下を歩いていると、ミンディが窓に張り付いた。
オーロラって、本でしかみたことないけど、光のカーテンみたいなやつだよね? 僕とレイニィも窓に張り付いた。

「うわぁ、凄く綺麗。光のカーテンだ」
オーロラは、本で見た通りだった。ううん、それ以上だ。それ以上に綺麗で、僕は涙が出そうになった。
ミンディもレイニィも魅入っていた。



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