雫と虹

僕たちはミンディの部屋に集まった。

「まさか、心の雫が砕けた原因が、失恋だったなんて……」

ベッドの上に座っているレイニィがため息をついた。
僕は、失恋っていうの、したことがないからわらかないけど、兄さんが心を引き裂かれる感じだって言っていた。 だから、なんとなく辛いとか痛いとかそんな感じなんだと思ってた。よくわからないんだけど。

「失恋ってそんなに辛いものなのか?」

レイニィの隣に座っているミンディが問うた。どうやら、ミンディも僕と同じで失恋したことないみたい。
レイニィは失恋したことあるのかな?

「私も失恋っていうのは、したことがないけど。失恋って、髪を切ったりする人がいるよ。 姫様の場合は、本気の恋だったんだね。姫様の恋のお相手にも会って話を聞いてみたいね」

僕とミンディはレイニィの話しに同意した。こうゆうのは相手の話しも聞かないとわからないものなんだ。
僕たちが失恋の話しをしていたら、急に外が騒がしくなってきた。 何を言っているのかはわからないけど、何か叫んでいるような声が聞こえた。

「何かあったのかな?」

ミンディは不思議そうにドアの方を見た。

「もしかしたら、ヒムロ王子とリッカ姫に何かあったのかも。見に行ってみよう!」

レイニィは、僕たちが口を挟む暇もなく、ドアを開け、廊下に出て行ってしまった。
僕とミンディは、レイニィの行動力に目を丸くし、顔を見合わせレイニィの後を追った。
そういえば、今は何時頃なんだろう? かなり遅い時間だと思うんだけど、外はすっかり暗くなってしまっていた。

「すみません、何があったんですか?」

レイニィは廊下で見つけた男の人に声をかけた。多分、二十代くらいの人だ。男の人はレイニィの方を向いた。

「泥棒が入ったんです。盗られたものはないのですが、地下が暴かれてしまって……」

僕たちは、男の人の地下という言葉ではっとし、顔を見合わせた。
だって、地下というと、心の雫があった場所だ。他にも何かあったのかもしれないけど、確かに心の雫は地下にあった。
泥棒が何も盗らなかったのは、そこには盗るものがなかったからじゃないのか? 心の雫はもうなかった後だ。
多分、ミンディもレイニィも同じことを考えていると思う。

「泥棒はどこの人だったんですか?」

レイニィが再び、男の人の方を向いた。
男の人は、レイニィが急に自分の方を向いたから少し驚いたみたい。

「いえ、それがわからないのです。相手はかなり準備をしてきたらしく、 気付いた後には誰もいなかったのです。物音で気付いたんですが、きっとあの音はここから出るときの音だったのでしょう」

白っぽいような青っぽい髪が横にサラっと流れた。

僕たちは男の人と別れ、ヒムロ王子とリッカ姫のもとに向かった。二人は、また謁見の間にいた。

「あ、ごめんね。うるさくして、起こしてしまったのかい?」

僕たちに気付くと、二人は王座の椅子から降りてきて、僕たちの方に来て、ヒムロ王子が言った。

「大丈夫です。まだ寝てなかったし。それより、泥棒の目星はついているんですか?」

ミンディがヒムロ王子とリッカ姫に問うた。何も盗っていないなら、泥棒というよりは不法侵入な気がするけど。
そもそも、泥棒ってどこからきら言葉なんだろう? こんなときでも、僕はこんなことを考えてしまう。これが僕の悪い癖だと思う。
ヒムロ王子とリッカ姫は周りを警戒し、僕たちに近くにくるように手招きした。僕たちはヒムロ王子の手招きにこたえ、近づいた。 何か、重要なことでも話すのだろうか?

「ここだけの話、僕は雷の国の仕業だと思っている。姉様は、雷の国の王子と結婚することになっていたんだ。 姉様は、僕たちにあまり気が乗らないと話してくれていたよ。雷の国は、それで怒っているんだと思う。 あそこは短気な人が多いし。それに、あの部屋に黒くコゲたような跡があった。僕は以前からこう考えていたんだ。 雨の国は雷の国と共通点が多いだろ? 雷雨とか。雷の国はどうしても、雨の国の姫である姉様を手に入れたがっていると思うんだ」

ヒムロ王子の言っていることはわかった。でも、僕にはよくわからなかった。
だって、雨の国がほしいわけなんでしょ? 自分の国があるのに何で国がほしいの?  昔、兄さんが国と国との戦いがあるってことを聖霊様から聞いたって言ってた。 国と国との戦いは、色々なことが原因となって起こるって。
レイニィもミンディもリッカ姫も話しを理解しているのか、深刻そうな顔をしていた。やっぱり、森と国は違うみたいだね。

「でも、雷の国だけじゃない。雨の国の者たちすら、姉様の恋を邪魔したの。そんな、私も姉様に何も出来なかった……」

リッカ姫は悲しそうにうつむいた。レイニィも申し訳なさそうな顔をしていた。

「君たちは、これからも心の雫を探すんだろう? なら、明日の朝すぐにここを出た方がいい。 また、奴らがくるかもしれないからな。次は海の国に行くといい。海の国は、この国から一番近い所にあって、 間違えなければすぐに着くことができる」

ヒムロ王子の言葉を聞いた後、僕たちは部屋に戻り、明日の準備をして、すぐに寝た。だけど、僕は中々眠ることができなかった。
不眠症でもないのになぜか、寝られなかったんだ。気がついたら朝になっていて、ミンディとレイニィに起こされていた。
何か、あるよね。寝たと思ったらすぐ朝になっちゃって、びっくりすること。

「ったく、お前何度起こしても起きないから、ちょっとイラっときちゃったよ」
「ごめんね、わざわざ起こしてもらって。何だか寝付けなかったんだ」

どうやら、僕は何度も起こされたみたい。ミンディに文句を言われちゃった。
だから、僕はそう正直に答え、僕の準備が終わるとすぐに出発した。

「誰か、海の国の行き方、知ってるのか?」

僕の部屋を出て、廊下を歩いているとミンディが思い出したように言った。そういえば、僕は知らない。

「大丈夫。私が昨日のうちに聞いといたから」

ミンディがそう言うと、レイニィがすぐにそう言った。
レイニィ、やっぱり凄い子だな。僕も、これぐらいの行動力がほしいと思った。



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