雫と虹
扉をあけると、ティアラをかぶった女の子の人魚が王座であろう、貝殻に座っていた。
貝殻っていうのは、巻貝とかじゃなく、よく真珠とかが入ってるやつ。で、パカッとあくやつだ。
僕はその貝の名前はわからないんだけど、本で見たことがあった。女の子は僕たちのことを見ていた。
女の子の髪は、珊瑚の髪飾りがついている。後、真珠のネックレスをしている。
「君達が、雪と氷の国から来た客人か? 話しはリッカ姫とヒムロ王子から聞いている。私はカナロア。西の海の国の姫だ」
カナロア姫はそう言って、僕たちの方に泳いできた。カナロア姫は青い人魚だ。
それにしても、海の国って一つじゃないんだ。西ってことは、東とかもあるのかな?
「私は雨の国のレイニィ。姫様も心の雫を探しているんです。
後ろの二人は筆を持っているのが、太陽の国のミンディ。もう一人が世界樹の森のフィリカです」
僕たちを代表して、レイニィがそう言った。やっぱり、レイニィは行動力に満ち溢れ、リーダー的な存在だよね。
「知っている。リッカ姫たちから聞いた。初めに言っておくが、
ここには心の雫はない。だけど、私は雨の国の姫がどこの国の王子に恋したかを知っているよ」
カナロア姫の言葉に僕たちは驚いて、顔を見合わせた。レイニィが凄く真剣な顔をしているのに気付いた。
「教えてください。姫様の失恋の相手はいったい誰なんですか?」
レイニィは、真剣な顔でカナロア姫に問うた。
きっと、僕も真剣な表情になっているんだと思う。ミンディも真剣な顔をしているもの。カナロア姫も真剣な顔をしている。
「雨の姫が恋したのは、時間の国の王子だ」
「時間の国?」
「そう。私は時間の国の王子と面識があって、本人から聞いた。
時間の国は、そのことで大変なことになっているらしい。なにより、この事実を知っているのは、
雨の国の者以上に時間の国の者の方が数倍多い。それで、時間の国の王子は……」
カナロア姫の声はそこで途切れた。カナロア姫は悲しそうな顔をしていた。
だけど、恋とかよくわからない僕には、なぜそこでカナロア姫が話しを止めたのか、悲しそうな顔をしたのかわからなかった。
恋って、かなり複雑なんだろうな。僕も恋をする日がくるのかな?
僕のお腹が急に音をたてて鳴った。そういえば、朝ごはん食べていなかったっけ。
でも、こんなときに鳴らなくてもいいじゃないか。皆に見られて、僕は恥ずかしくなった。
「腹が減っているのか?」
少し驚いた顔で、カナロア姫が問うた。ここは、そんな風に聞かないで笑い飛ばしてほしかった。
その方が、僕も恥ずかしさは減るし。逆にそんな顔をされると、余計に恥ずかしくなる。
「は、はい……」
僕がそう言った直後、ミンディのお腹が鳴った。ミンディは、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「何だ。そっちもか。なら、城で何か食べていくといい。食堂まで案内する」
カナロア姫はそう言って、にっこりと笑った。
カナロア姫、口調が男っぽかったから、あんまり笑わない人なのかと勝手に思ってたけど、笑うと可愛かった。
思わず僕とミンディが見とれてしまうくくらいに。だけど、カナロア姫は気づいていないのか、
気にしないのか僕たちのことはお構いなしに、人魚に尻尾をひらひらとさせて、泳いで行ってしまった。
僕たちは見失わないように急いでカナロア姫の後を追った。
謁見の間から下に泳ぎ、僕たちは海底を歩く。
でも、暫く歩いているとこの国では、歩くより泳ぐ方が便利で早いってこともわかり、僕たちは泳ぐことにした。
泳いでいる間も僕のお腹は煩く鳴き続け、なにより泳ぎがあまり得意でない僕は結局皆に置いていかれ、歩くことにした。
食堂は案外近くにあった。テーブルは海底にある岩で出来ていた。
そうか、ここは入口と同じ位置にあるから、泳がなくても行けたんだ。
「食堂なのに誰もいないね」
ミンディが誰もいない食堂を見渡した。
確か、雪と氷の国を出てきたのが六時くらいだから、今は九時とかそのくらいだと思う。
なのに食堂には誰もいないんだ。普通、九時なら遅く起きた人が朝ごはんを食べていそうな感じなのにな。
「うちは、朝が早いからな。何か適当に食べるといいよ」
カナロア姫はそう言って、僕たちをカウンターまで連れてってくれた。
カウンターには、様々な海草が並んでいて、多分それが主食なんだと思う。
あと、貝とか置いてあったけど、魚料理は一つもなかった。僕たちはそれらをお皿に乗せて、テーブルについた。
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